第200話 悪人は、猛獣に鈴をつける危険を教える
「……それで本当の所、あなたたちはあそこで何をしていたの?」
オリヴィアは、ヒースが運ばれた個室にクラウディアを連れて、人払いをした上で事情を問い質した。流石に、現職の大臣が宰相の孫娘と白昼堂々変態プレイをしていると言われても、信じることはできないとして。
「いやぁ……そのぉ……」
しかし、嘘が見破られたからと言って、本当のことを話していいモノなのか。クラウディアでは判断がつかない。そもそも、彼女はオリヴィアを見たことをヒースに伝えただけで、どうして馬車を止め、しかも変装までして様子を確認しようとしたかまではわからないのだ。
だから、そのヒースが股間に氷嚢を置いて、言葉を出せない程苦しそうにしている今となっては、こうして逡巡して、答えを告げることはできなかった。すると……
「どうせ、何かたくらんでいると思ったんでしょ?まあ、ハインリッヒ陛下の婚約者たるわたしが…この下町に護衛をつれずにウロウロするのは、違和感ありまくりですからね」
それがヒースの真意と一致しているかは定かでないが、オリヴィアはそうではないかとクラウディアに確認してきた。
「そ、そうよ。だって、あなたたちティルピッツ家の方々は、昔っからよく悪いことをたくらんでいるじゃない。疑うのは当然でしょ!」
「あら?何を言うかと思えば、よくもまあ自分たちのことを棚に上げて言えるわね。いつもこそこそ裏でばかり工作しているのは、ローエンシュタイン家の十八番芸よね?……大体、あなただって……形勢が不利と見るやハインリッヒ様を裏切った尻軽女じゃない」
「し、尻軽!?あ、あなた、何て酷いこと言うのよ!」
「まあ!図星だからって、そんなに慌ててお可愛らしい事。でも、あなたがアルデンホフ公に寝取られたから、わたしにチャンスが巡ってきたわけで……そのことには感謝をしてもいいと思っているわ。ありがとう」
「どういたしまして!でも……わたしには、沈みゆく船に乗り続けるあなたに同情するわ。聞いたわよ?ルキナ殿下に記憶操作してもらって、あの件をなかったことにしてもらった途端、また女遊びを始めたんですってね。ホント、アイツ懲りないわね」
「そういうアルデンホフ公だって、あちらこちらで遊ばれているってお話じゃない。もしかしたら、あのスターナイト・シスターズのお姉さま方にも手を出しているんじゃなくて?」
「そ、それは……」
クラウディアは、少々M気質のある変態ではあるが、根は真面目な女の子なのだ。ゆえに、どうしても口では誤魔化そうと思っても、心の声が顔に出てしまう。そのため、気苦労を重ねてきたオリヴィアにはかなわず、こうして言い負かされてしまった。
「……うそ、ホントなんだ。これは面白いことを聞けたわね。帰ったら早速ハインリッヒ様のお友達に教えてあげないと」
「や、やめて!わたしが悪かったわ!だから、それだけは許して!!」
「ふふふ、どうしようかな?」
狼狽えるクラウディアを前に、オリヴィアは勝ち誇ったように笑みを浮かべて何を命じようかと考える。但し、それらはハインリッヒの利になることであった。例えば、定期的にアルデンホフ陣営の情報を知らせる二重スパイとかだ。
(絶対、ハインリッヒ様が失脚するような事態になるときは、アルデンホフ公がカギになるわ。だから、この機会に首に鈴を付けておかないと……)
その読みは決して間違ってはいない。だが、残念なことにオリヴィアは、SSS級の猛獣の首に鈴を付けることがどれほど恐ろしい事かを理解できていなかった。
「ほう……ワシを脅すというのか。面白い、やれるものならやってみるが良い」
それはまるで地の底から湧き上がってくるような……不気味な声だった。思わず背筋がゾクっとして声の方角に目をやると、ヒースがゆっくりと体を起こしていた。
「え、えぇ…と?」
「だから、やりたければやれって言っているのだ。別に、真実が明らかになって、あやつらが解散したって、ワシは全然痛くもかゆくもないのだからな。……それよりも、いいのか?」
「な、何がですか?」
「今の状況のことだよ。仮にも国王の婚約者なのだろ、おまえ。それなのに、こんな場末の酒場の個室で女癖が悪いことで評判のワシとの密会。おまえの爺さんにワシが『寝取った』と言ったら、どうなると思う?」
「う……お爺様なら、喜んでハインリッヒ様との婚約破棄に動くわね。わたしのことを傷物呼ばわりしながら。……で、どうしたいの?この未発達な体でも欲情するのかしら?」
それならそれでも仕方ないけど、「ロリコン野郎と呼ぶわ」と言うオリヴィアに、ヒースは苦笑いを浮かべつつも明確に否定して本題を切り出した。それは、「ここでなにをしていたのだ」という、至って振出しに戻るテーマであった……。
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