第188話 悪人は、魔族を相手にヒャッハーする
メリダ港に船が到着すると、ヒースは安全に停泊し続けるために、この町にいた魔族をまるで草を刈る様にして容赦なく殺戮していった。通りに居る者は【蓑虫踊り】で消し炭に、建物に立て籠もっている者は【爆弾正】で建物ごと爆破して。
「これじゃ……どっちが魔王かわからないわね……」
その残忍なやり口にルキナはカリンたちとその光景を船の上で眺めながら、素直に感想を吐き出した。そして、思う。この実力ならば、とっくに本物の魔王を越えていると。
「ふぅ、終わったからもう上陸していいぞ」
そうして時間にして1時間ほど経ち、ヒースは再び船に戻ってきて皆にそう告げた。一先ず無事だった宿があるから、今日はそこに泊まろうと。そのため、この船を管理する船員たちを残して、ルキナたちは船から降りて町へと入った。
「それで、これからどうするつもりなの?」
宿に向かう道すがら、ルキナはヒースに訊ねる。今回の目的は、消息がわからなくなったブレンツ子爵の生死を確認することであり、魔王を倒すことではない。ただ、今のヒースの実力ならば、実現が可能なだけにどうするつもりなのかと。
すると、ヒースは答える。あくまでもブレンツ子爵の捜索のみであると。
「魔王城に向かえば、この港を守ることはできなくなるだろう。そうなれば、失敗したときは逃げ道を失うことになる」
ヒースは魔王討伐に向かわない理由として、まずそのことを告げる。残ったメンバーで守れるのであればそういう選択もあるかもしれないが、沖合での戦いを見る限り、それは無理だと断じたのだ。
「それでは、捜索範囲もこの港町や首都周辺にとどめると?」
「まあ、そうなるな。あと、それ以上範囲を広げる時間もない。何しろ、西部に向かった一行が王都に戻る直前に再び入れ替わらなければならないのだ。長くても1か月といったところだろう」
「1か月……」
果たしてその期間で見つかるのか。ヒースから答えを受取り、ハインツは焦りを感じた。そして、未熟なのだろう。その感情がもろに表に出た。
しかし、そんなハインツにヒースは言う。きっと、生きているのであれば、何かしらの連絡があるはずだと。
「それは……」
「わからんのか?さっき、ワシはこの町でド派手に立ち回っただろう?」
「はい、それは承知しておりますが……」
そのことが何の関係があるのか。ハインツは理解できずに首をかしげた。すると、その答えはヒースの口から発するよりも先に、目の前に形となって現れることになった。
「そこにいる者は何者か!」
不意に足元の方角から声が聞こえて目を向けると、地面から人の首だけがニョキっと生えるようにして、それはおよそ20メートル先に存在していた。
「えぇ……と?」
ハインツはどうやら理解が追い付かずに戸惑い、どう答えるべきかと言葉を詰まらせるが、ヒースはそんな彼を押しのけるようにその名を名乗った。「ロンバルド王国のアルデンホフ公爵である」と。
「アルデンホフ公?」
「そうだ。ワシらは、この国で行方不明となったブレンツ子爵を捜しに来たのだ。おまえ、何か知っているか?」
「知っているも何も、我らのリーダーだ。しかし……おま、いや、貴殿は本当にブレンツ子爵の味方なのか?さっきの残忍なやり口と言い、実は魔族なのではないのか!?」
大体、魔族ならば、味方であるはずの魔族を殺戮したりはしないだろうというのに、この首だけ出した男は疑るようにヒースに訊ねた。そのため、流石にヒースもイラつく。
(こいつ、殺すか?)
おそらくだが、ヤツが首だけ出している穴の先に、ブレンツ子爵はいるのだろう。そうなれば、この男の生死は特に問題ないような気がしてきて、ヒースは【毒魔法】を使おうとした。しかし、それを察したのか、ルキナに止められてしまう。
「何をする気だ?」
「まあ、ここはわたしに任せて」
そう言ったルキナは、男の元に近づいて……指輪を渡した。
「わたしは、ロンバルド王国摂政、リヒャルト・フォン・ロンバルドの娘ルキナよ。この町の宿で待っているから、ブレンツ子爵にこの指輪と共にそう伝えてくれる?」
摂政の娘ということは、本物であれば王女様だ。そのことに気がついて、この男も今度は無下にはできなかった。
「わかりました。それなら、子爵に伝えてきます。ですが、くれぐれもこの穴の中に入らないようにしてください。中は迷路になっていて、地図がなければ必ず迷いますので」
男はそう言って、首を引っ込めると地面の蓋を閉めた。そのため、ヒースらはそのまま当初の予定通りに宿に入ることにしたのだった。
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