幕間 愚かな王は、真っ白に燃え尽きる(後編)

「それでは、我らは外で見張っておりますゆえ……」


そう言いながら、ゲレオンは手下を連れて部屋の外に出て行った。これで、ハインリッヒと二人きりとなったわけだが……流石に国王というだけあってか、拉致した女を犯すという下種な行為をするにしても、豚小屋のような場所ではヤらないらしい。


「あの……陛下。わたしには婚約者が……」


「心配するな。俺はこの国の王だ。ルクセンドルフ伯にも何も言わせん」


「でも……」


ホテルのような清潔感のある部屋の中で、ゆっくりと近づいてくるハインリッヒに怯えるふりをして、ベッドに向かって後ずさりをするエリザに変化した男。このまま、押し倒されたら、あとは一気に寝技に持ち込むつもりでいるのだが、興奮するハインリッヒは危険に気づかない。


そのまま、男に濃厚なキスをしながら、一気にベッドに向かって押し倒した。


「だめ!やめてください!こんなことをしたら、きっと後悔なさいます!!」


「後悔なんかするもんか!ここまできたら、もう諦めろエリザよ。それに、伯がいなくて寂しかったのだろ?」


「さ、寂しくなんか……」


「うそだな。そう言いながら、おまえの顔は今、喜びに満ち溢れているではないか」


ハインリッヒはそう言いながら、男の心情を言い当てたのちにシャツを思いっきり引き裂き、中にあった乳房をむき出しにして吸い付いた。変身術は、忠実に再現していて、それは本物と全くそん色はない。


「やめてください!誰か助けて!!い、いや……あ……」


「無駄だ!この部屋には防音魔法を幾重にもかけておる。だから、外にいるゲレオンらにもおまえの声は届かんよ!」


ハインリッヒは、もうすぐわが身に不幸が訪れることに気づく様子もなく、鼻息を荒くしながらエリザの形をしている男を好き放題に蹂躙し始めた。一方で男は、「それは好都合」と思いながら、形だけの抵抗をしたのちにチャンスが来るのを待つ。


そして……スカートを脱がされて、そのまま下着に手を伸ばされたその時、男は頃合いと見て変化を解いた。


「え……?」


突然目の前に現れた一本の肉棒に、ハインリッヒは固まった。それは、自分の股間にもついていて……違っているところがあるとすれば、自分の物よりはるかにサイズが大きい事と皮を被ってなく黒光りしていることだ。ただ……どうしてそれが彼女の股間についているのか、理解できるはずもない。


だが……男は、手を止めてしまったハインリッヒの頭をがっちり両手でホールドして、その肉棒をポカンと開いているその口に突き刺した。


「んご!んんん!?」


わが身に何が起こったのか。すぐには気づけなかったハインリッヒだが、イカ臭い匂いが鼻に突き刺さって、ようやく事態を飲み込んだ。必死に抵抗して、何とか逃れると外に助けを呼んだ。


「だ、誰か!助けてくれ!!」


しかし、この部屋には防音魔法が効いていて、その声は外には届かない。ベッドの上から逃げ出せれば、ドアを開けて助けを呼ぶことも可能なのだが、それを許す男ではなく……やがて、ハインリッヒは捕まり、力づくで組み伏せられた。


「放せ!無礼者!!余を誰だと……!?」


「陛下。良い言葉を贈りましょう。ヤっていいのは、ヤられる覚悟がある者だけだと」


「な、なんだ!?それは!!」


意味の分からない言葉を吐き出した男に、ハインリッヒは抗議の声を上げるが、暴走した男は最早止まらない。挙句、この日のために用意していたというクリームを……取り出してハインリッヒの大事な場所に塗りたくった。


「よ、よせ!何をする気だ……」


「これはですね、陛下。先代のシューネルト伯……ジョニーさんが御愛用していた逸品でしてな。お気に入りの少年と事を成す時に使ったそうですよ」


「先代の……シューネルト伯…だと!?」


その噂は、ハインリッヒも耳にしたことがあった。確かその死後、後援する少年合唱団の少年に性的虐待を加えたという疑惑で世間を騒がしていたと思い出して。それゆえに、今からわが身に何が起こるのか……想像もついた。


「た、頼む。俺が悪かった!お願いだから、止めてくれ!!」


「止めてと言って止めなかったのは陛下御自身では?わたしは聞きましたよね?きっと後悔するからと……」


そう言われては、ハインリッヒも返す言葉がない。確かにこの男は途中でそのように訊いてきていた。


「大丈夫ですよ。はじめはちょっと痛いかもしれませんが、天井のシミを数えている間に全部終わっていますから」


そして、男はそう耳元で甘く囁くと、それから怯えるハインリッヒを好き放題に蹂躙した。


(こんなことになるのなら……やめておけばよかった)


突き上げてくる痛みと屈辱で、ハインリッヒは涙を流しながら、無謀だと諫めてくれた友人たちの顔を思い出した。だが、後の祭りだ。もうあの日には戻れない……。





「陛下!ご無事ですか!?」


それから2時間余りして、ティルピッツ家の私兵を連れて駆けつけたオリヴィアは、扉の前でのされているゲレオンたちに目もくれずに、そのまま部屋に突入した。しかし……


「遅かったか……」


隣に立つ危険を伝えに来てくれた女性の呟きと共に、すでに手遅れだったことを知った。


部屋の中にある豪奢なベッドには、ハインリッヒだけがいる。だが……一糸もまとわぬその体は白く汚されていて、なによりその頭髪は真っ白に染まっていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る