第154話 悪人は、理屈でねじ伏せる

長い旅から王都に戻ったヒースは、その足で王宮に向かった。用件は、アルデンホフ領の首尾と入手した情報を報告するためだ。ちなみに、その中にはシューネルト伯爵領でやったことについては含まれていない。何事もサプライズは大事だったりするのだ。


ただ……そのサプライズを抜きにしても、その場に居合わせた一同を唖然とさせるには十分すぎたのだったが……。


(嘘だろ!?アルデンホフ家の継承の話をしてから、まだひと月も経っていないというのに……)


(これでは、こやつの力が強大に……)


表面上はにこやかにヒースからの報告に耳を傾けているが、ローエンシュタイン公爵クロードも、ティルピッツ侯爵ウィルバルトも内心では心穏やかなはずがなかった。


だから、当然のようにその解決方法に異議があると口を出してきた。王国の権力を握る者としては、出る杭は打たなければならない。


「税率は構わないとしてだ。いくら領内に限るとはいえ、その……なんとか教……」


「アドマイヤー教ですかな?」


「そう、それだ。その聞いたことのないアドマイヤー教とかいう宗教を認めても問題ないのか?教皇庁が騒ぐと思うが……」


クロードはそうやって、先頭を切って口出しをした。バルムーアを敵に回してなお、教皇庁を敵に回すのは得策ではないと。


だが、これに対するヒースの答えは決まっていた。


「それをいうならば、教皇庁は今回のバルムーアの侵略に対して、何か行動を起こされたのですかな?わたしが知らないだけで、バルムーア王を破門にしたのですか?してないでしょう?」


「い、いや……まあ、それはそのとおりではあるが……」


「だったら、何の遠慮がいると言うのですか?いつも金だけむしり取って結局役に立たないのですから、気にする必要はないでしょう」


まさかそこまで容赦なく、清々しい位に、教会をバッサリとこき下ろすとは思っていなかったのだろう。クロードは二の句を継ぐことができずに唖然としたまま固まった。すると、今度はウィルバルトが違う角度から斬り込んだ。


「ローエンシュタイン公が今言われたこともあるが、ワシはそれよりも統治体制にそのアドマイヤー教の関係者を参画させても問題ないのかが気になる。それでは、いずれ教団によって領地を乗っ取られるのではないか?」


「現時点で事実上乗っ取られているのです。それなら、そのまま利用して上前をはねた方が平和的だし、何よりも楽でしょう」


加えて言うならば、彼らの力を取り入れることで、バルムーアの目論見を潰すことができるのだ。何が問題あるのかとヒースが逆に訊ねると、ウィルバルトも白旗を上げた。


そして、それを見てリヒャルトが話をまとめにかかる。


「教会のことは、バルムーアとの戦いの後で考えるとして……ヒース君。勝つためにはどうすればいい?」


まさか早速教団の力を借りるのかと、リヒャルトは驚いたように言うが、今回はその気はないとヒースは答えた。


「バルムーアの連中には、上手く行ったと思わせるために教団から使者を送るように指示を出したが、あくまで戦うのは王国軍でなければならないかと」


さもなければ、ただでさえ国王交代で動揺している東部が国から見捨てられたと感じて、寝返らないとも限らない。


「ここは、リヒャルト殿下が御自ら兵を率いて東部へ赴かれるのがよろしいかと思います」


その上で、すでに勝つための算段は付けているとも告げた。だから、これはあくまでもパフォーマンスだ。強い王国の象徴として、リヒャルトの姿を東部のみならず王国中に広く印象付けるためだった。


「二人はどう思う?」


リヒャルトは、さっきから苦虫を潰したようにしているクロードとウィルバルトに話を振った。彼らのヒースをこれ以上大きくしたくない気持ちは理解するが、終わったことに拘り続けても仕方がないと。勝たなければ、元も子もないのだ。


「……ルクセンドルフ伯の申される通りになさるのがよろしいかと」


「同じく……」


個人的な思惑を除いて考えれば、ヒースの言っていることは理にかなっていた。それゆえに、クロードもウィルバルトも、それ以上は抵抗しなかった。

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