第120話 悪人は、その非道を責められる
夜——。アレクシスから完成した手紙を受取り、執務室に戻ったヒースは、そこにサーシャの姿を確認して、一つ手間が省けたとまず考えた。
「サーシャ。ちょうどよい所に来てくれたな。この手紙を……」
「閣下!ディアナは!?ディアナはどこに居るのですか!」
しかし、用件を切り出す前に詰め寄られてしまい、これは一体どうしたことかとアーベルを見る。すなわち、なぜここに連れてきたのがバレているのかと。
「閣下!非礼を承知で申し上げますが、ディアナは我がスターナイト・シスターズのエースなのですよ!それを……まるで娼婦のように扱うなどとは……」
(いや……元々、娼婦にするつもりだっただろうが……)
鬼の形相で抗議の声を上げるサーシャの姿を見て、ヒースは初志を忘れたのかとそう思った。ただ、そのことを口にはせず、その代わりに彼女を安心させるように事情を説明する。
「……確かにディアナをお主に黙って連れてきたのは悪かった。だが、安心してくれ。ちょっとエッチな衣装を着てもらったが、アレクシスに指一本足りとも触れさせはおらん!」
「指一本も……?それは、本当ですか?」
「本当だ。何しろ、手紙さえ書いてもらえればヤツは用済みだからな。終わり次第速攻で睡眠魔法をかけて眠らせておいたわ」
その魔法はとても強力なもので、少なくともこれから馬車に揺られて3日後に実家近くの公園に放置されるまでは、目覚めることは一切ないだろうとヒースは言う。
「ですが、お義兄さま。……アレクシスさんは、合わせて1週間も家を留守にしていたのですよね?流石に兄君であるケッセルリンク伯爵が黙っていないのでは?」
「それについては、すでに多額の謝礼を支払っているから大丈夫だ。むしろ、伯爵は面白そうだと言って乗り気だったぞ」
付け加えると、夢の中ではディアナとエッチなことをしているように設定していて……起きればきっと、全てが夢オチだと理解するように仕向けてもある。全くの手抜かりはなかった。しかし……
「1週間も拘束しておいて、指一本も触れさせずに送り返すとは……。お義兄さま、それはいくらなんでも、かわいそうではないでしょうか。同じ男として同情しますよ……」
「そうよね。そのアレクシスって子、不憫よね……。別に指一本位……いえ、おっぱいくらいなら触らせてあげてもよかったのでは?」
「ヒース様……。そんなことばかりしておられると、いつかお友達を全て無くしますよ?ただでさえ、少ないというのに……」
そのあまりに友情の欠片もない鬼の仕打ちに顔を引きつらせて、アーベルもサーシャも、そしてエリザさえも、非難の声を上げる。いくらなんでも、それは酷すぎるのではないかと。ヒースは居心地の悪さを感じた。
「な、なんだよ!それなら、ヤツにディアナを抱かせてもいいっていうのか?ワシもまだ味見していないのに……」
それゆえ、つい本音がポロリと零れてしまった。他のメンバーなら幾人か味見をしているのだが、ディアナだけはガードが固く、ヒースも手を焼いていたのだ。だが、それをこの場で言うのは非常にまずいわけで……
「ヒース様……?お味見をなされるおつもりなのですか?」
穏やかだが、どこか棘がある声。ゆっくりと振り向いたその先にある冷たい微笑みを浮かべるエリザの圧に、ヒースの背筋は凍った。
「い、いえ……そんなことケシテナイヨ?」
「だったら、ディアナさんを早くおうちに帰しましょうね?それとも……この場に居ないのを見ると、もしかして今宵……ご自身のお相手をさせようとお考えで?」
そんなことは決して許さないというエリザの強い意志を感じて、ヒースは観念した。そして、吐き出しそうになるため息を我慢しながら、断腸の思いでサーシャに告げる。
「サーシャよ。ディアナは客室にて待機させているので、あとで連れて帰るが良い。だが……折角来たのだから、もう少しワシらの話に付き合ってくれぬか?」
ヒースはそう言って、アレクシスに書かせた偽の手紙を2通、この場にいる全員に見せた。そして、ようやく本題へと話を移行させるのだった。
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