第67話 悪人は、その後の進展を訊ねられる

「それで、結局あの後どうなったんだ?」


あの日から10日余りが過ぎ、いよいよ聖誕祭のパーティが明日に迫っていた。そんな中、どのような結論になったのか気になったルドルフがヒースに訊ねる。ちなみにだが、あの日のことは誰にも話してはいない。夜な夜な、枕元の様子が気になっては眠れない日々が続いているが……。


「なんだ、気になるのか?」


そんなルドルフの問いかけに、ヒースはぶっきら棒に答えた。だから、下世話な奴だと思いながら小声で答える。「まだキス止まりだ」と。


「まあ、よくよく考えれば、俺たちはまだ10歳なんだよな。あのときは……そんな気分になったが、あのままやっちゃってたらなにかと社会的にも問題があったわけで、正直、あのときはおまえのことを殺したいと思ったけど……結果的には、助かったよ」


ヒースは初心な童ではないので、頬を染めてということはなく淡々と話すが、聞いているルドルフの顔は真っ赤だった。だが、本音を言うとルドルフが聞きたかったことはそんなことではなかった。ゆえに、ヒースの勘違いを正すためにもう一度訊ね直す。


即ち、「明日のエスコート問題は解決したのか」ということを。


「えぇ…と、そっちの方の話だったわけ?」


「ああ……」


まだ赤みが引かない顔で呆れたように言うルドルフ。そんな彼にヒースは言った。もう一度、「なんだ、気になるのか?」と。若干、恥ずかしそうにしながら。


「そりゃそうだろ。あれだけクラスのみんなを巻き込んで大騒ぎにしておいて、何も音沙汰がなければ誰だってな。……見ろよ。みんなもさっきからおまえらの方をチラチラ見ているだろうが。一体どうなってるんだって」


ルドルフがそう言うと、クラスの連中は一斉に目を背けて知らぬ顔を決め込んだが、ヒースは誤魔化されずに「なるほどな」と呟いた。自分だったら全く気にならないものなのだが、ここの連中はそうではなかったらしいと。


だが、ルドルフの言うように、何も答えないというのは確かに不義理だ。無論、義理なんぞは、ヒースにとっては鼻紙1枚よりも価値がなく、軽いものなのだが、それでもこのことが原因で折角芽生えた連帯感に水を差すのは、自分の利益にはそぐわない。


そう……ヒースはあくまで自分の利益を失わないために、連中にありのままに答えることにした。


「実のところはな……ワシもわからないのだ」


「はあ!?」


ヒースの不誠実な回答に、「散々勿体ぶっておきながら、なんだその答えは!」とルドルフは声を荒げた。さっき、目を逸らしていた連中も一転、「どういうことだ」とヒースに詰め寄ってきた。


「だって、仕方ないじゃろうが。ワシだってエリザに『当日をお楽しみ』としか言われてないんじゃよ。マチルダもビアンカも一緒に休んでいるから、何か準備をしているのだとは思うのじゃがな……」


ヒースは周囲の圧に負けて、宥めるためにそう言った。すると、連中の間から「そういえば、3人とも休んでるわね」という声が聞こえてきた。


「つまり、エリザは黙って見逃したりしないということね?」


「しかも……マチルダとビアンカもその作戦に加わったということは……相当にやる気ね」


「面白くなってきたわ!わたしも出席しようかな?」


「でも、パートナー同伴が原則だったはず。相手はどうするの?」


「それは……このクラスの男どもの中から……?」


「お、俺でよければ……」


「ダメよ!そんなことしたら、そいつと結婚しなければならなくなるわよ!そもそも、それが問題だからこれだけ騒ぎになってるんじゃない!」


「そうか……。ごめんね、ブルーノ。あなた、わたしのタイプじゃないから」


喧々諤々。中には、どさくさ紛れに振られて落ち込む男の子も現れる始末だ。ヒースは呆れて、収拾がつかなくなってオロオロしているルドルフに、意趣返しのつもりで訊ねてみた。「それで、おまえはどうするんだ」と。


「俺は……部屋でゆっくりするつもりだよ。そんな危険な場所に行ったら、きっと碌な目に合わないからね」


だから、みんなにも自制して部屋で大人しくすることを勧める。だが……


「ルドルフ君。それはいけないと思います!」


「みんなをここまで盛り上げたんだから、おまえも強制参加に決まってるだろ!」


「パートナーがいなければ、わたしがなってあげてもいいわよ。但し、結婚はしてもらうけど……」


……などなど、クラスの一致団結を求めて、誰も味方になってくれなかった。


「ヒース……ひどい。おまえの修羅場になんで俺を巻き込むんだよ……」


周りを4、5人の女の子に取り囲まれて、「さあ、誰を選ぶの」と迫られることになったルドルフは、恨みがましく彼を睨みつけた。だが、ヒースは知らぬ顔をして教室を出た。

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