第31話 悪人は、責任を取るように迫られる
「会いたかったわ、久秀!!」
「ま、待て!その名前は……」
「大丈夫よ、パパには話してあるから。心配ないわ」
そう告げるルキナの言葉に、ヒースはリヒャルトを見る。すると彼は頷いた。どうやら、本当のことのようだ。そして、「あとは二人でごゆっくり」とだけ告げて、彼は部屋から去って行った。
「待て待て待て!全然大丈夫じゃないだろ!!おまえは元女神で、ワシは前世の記憶持ちなのだぞ!?何かの拍子で外に漏れたらどうするんだ!」
扉が閉められた音で再起動したかのように、ヒースはルキナに詰め寄った。万に一つ、この事実が教会にでも知られれば、二人そろって悪名高き異端審問会へ直行だ。
「そのときは、わたしのスキル【記憶操作】を使うわよ。それに、ヒースだって強力な暗殺スキルを持ってるんでしょ。何しろ、このわたしが付与したからね!」
だから、教会の捕吏などチョチョイのチョイでやっつけられるでしょと、ルキナはドヤ顔でそうに言った。その言葉に、ヒースは自分のステータスに記されているスキルを思い出し、ため息をついた。
「やっぱり、あれはおまえの仕業だったのだな……。あんな危険なスキル、オーバーキルにもほどがあるだろうが!」
【蓑虫踊り】に【爆弾正】。さらに言えば、毒魔法まで覚えているという、まさに人を暗殺するために準備されたというような代物だ。そう易々と使う場面など訪れることはない。ゆえに、ルキナに『自重』の言葉を知らないのかとヒースは問い詰めた。しかし……
「大丈夫よ。この国の政情は不安定だから、この先きっと必要なものになるわ」
王女であるわたしがそう言うのだから間違いないわと、ぺったんこな胸を張って言うルキナ。まだ8歳ということだから、転生の神殿で楽しませてもらった大きな胸はまだ育っていないが、論点はそこではなくて……仮にも王家に連なる人間がそんなことを軽々しく言って大丈夫なのかと、ヒースは心配した。
「だけど、事実だからね。隠したって仕方ないでしょ」
何の感慨もなくそう言ったルキナは、特に王太子が危険と忠告した。決して近づかないようにと。ヒースは貴重な情報を得ることができたと感謝して、この話を打ち切った。そして、話題を変える。
「なあ、それにしても何でお前の方が年上なんだ?転生したのはワシの方が先だったと記憶しているのだが……」
「ああ、それね。だって……今度はわたしがリードしたいじゃない?そのためには、立場も年齢も上の方がいいかなって思って」
だから、1歳だけ年上の王女に転生するように調整したとルキナは言う。最も、この国の変な仕来りによって、地位の方が奪われるという事態になるとは思わなかったようだが。
「つまり、結局ワシに助けられているじゃないか。年上に生まれた意味などなかったな。このへっぽこ女神」
「う……それは言わないのが約束よ……」
ルキナはそう言って肩を落とした。「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」と言って。
「あと、もう一つ解せぬことがある。ワシが聞いていた王女の名は、確かマリーと言っていたはずだ。それがなぜ、元の名を名乗ってるのだ?」
「そんなの当たり前でしょ。マリーという王女はあなたの献策で死んだことになったんだから、別の名を名乗らないといけなくなったのよ。それなら、使い慣れた前の名前にしたのよ。ただそれだけよ」
それに、その方があなたと再会した時にわかってくれるでしょと、恥ずかしそうにルキナは付け足した。これで、最初に名を聞いたときに思い出せなかったことは、墓場まで持っていかなければならないなと、ヒースは理解した。
「ねぇ……そんなことよりも、わたし話があるの。聞いてくれる?」
突然、艶っぽい声を出して、ルキナはヒースに言った。ヒースは何故だかわからないが、嫌な予感がして今すぐ逃げ出したくなった。しかし、逃げれないように彼女に手を掴まれてしまった。
「な、なんだ……いきなり……?」
「あのね……あの時のアレ、わたし、初めてだったの……」
「ああ……確か、そんなことを言ってたな……」
神殿での出来事は今でも克明に覚えている。あのときのルキナは確かそのように言っていたことも……。
「それでね、責任を取ってもらいたいの」
「責任って……一体……」
そう言いつつも、ヒースはこの先にある彼女の言葉を理解して、本気で逃げようと掴まれた手を解こうとするが……どういうわけか解くことはできない。そして、彼女はその続きを告げるために口を開いた。
「だからね、わたしと結婚してね。返事はハイかイエスしか受け付けないから!!」
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