第7話 悪人は、袖の下を使う

「ほう……赤ですか。どうやら、ヒース様の内側には、『火の魔法使い』としての素質があるようですね」


その神官は、水晶に映し出された色を見てそう言った。色が写るのは、魔法使いの素養があった場合で、テオのように武芸の素養があるものは、その武器の形が映し出されるという。


そして、色は最も得意となる魔法の属性を示していて、今のように『火の魔法』なら赤、『水の魔法』なら青、『風の魔法』なら緑……といった具合になるとも。


「……母は、風の魔法使いで、父は土の魔法使いです。もしかして、わたしは……」


ヒースの脳裏に「父の子ではないのか?」と一瞬そのことがよぎった。すると、神官は首を振った。


「御心配には及びませんよ。魔法使いの場合は、父母と必ずしも属性が一致しないという研究結果が出ています。ですので、魔法が使えるというだけで、ヒース様は紛れもなくお父様とお母様の血を引いているということです」


優しく微笑みながら伝えてきた神官の言葉に、ヒースはホッと胸を撫で下ろした。これで、カリンに「おにいさまはにせものだったのですね!」と失望されずに済むと。


「では、次にヒース様のステータスを確認させてもらいます」


「ステータス?」


なんだそれはと思い、ヒースは神官に確認した。


「ステータスとは、ヒース様の能力を数字に表したものです。あと、習得したスキルなども……」


「ふーん。それって、もしかして自分でも見れるのか?」


ヒースは、去年からテオが剣術練習をした後、時折訳の分からない言葉を呟いて、にやけていたことを思い出して訊ねてみた。


「可能でございます。『ステータス』と唱えれば……そう、この辺りに半透明な表示板が現れます」


「それは、人には見えないのか?」


「高位の神官のみ習得する魔法を使えば見ることはできますが、今日のような洗礼式以外でその魔法を使用する場合は、教皇庁の承認が必要となります。ですので、余程のことをしない限りは、覗き見されるようなことはないでしょう。ご安心を」


「なるほど……」


その言葉を聞いて、ヒースはむしろ残念に思った。もし見れるのであれば、今後、領主となった時に有用な人材か否かを判断する材料にすることができるのではないかと考えたからだ。


「それでは、始めますがよろしいですか?」


「構わない。やってくれ」


ヒースはぶっきら棒にそう答えた。すると、しばらくして目の前にヒースの『ステータス』が現れた。


 ヒース・フォン・ルクセンドルフ 【人族:7才】

 職業 魔法使い

 Lv  1

 体力  17/17  魔力 17/17


筋力   10

 敏捷力  8

 知力  92

防御力  8

精神力  99

幸運力  22

 

【属性】

火魔法 LV.1 爆発魔法 LV.1 毒魔法 LV.1


【特有スキル】

爆弾正 LV.1 蓑虫踊り LV.1 四十八手 LV.1


「ほう……その御年で、特有スキル持ちとは驚きま……えっ!3つも!?しかも、この知力と精神力は……さらに、毒魔法!?」


そこに刻まれている文字を拾うたびに声を上げて、神官の表情は次第に引きつっていく。そして、同時にヒースは頭を抱えた。


(あの女神め……。いくらなんでも、これはやりすぎだろ!)


知力と精神力は、前世の記憶持ちだから仕方ない話なのだが、明らかな悪目立ちにヒースはどこかに転生したであろう女神を罵った。何しろ、この数値は、王都の宮廷魔導士に匹敵する能力らしい。教皇庁に報告されれば、碌なことにはならないだろう。


「……神官殿。これを……」


こんなこともあろうかと用意していた革袋を、ヒースは神官に渡した。中には金貨がぎっしり詰まっている。


「ははは……どうやら、目の具合が悪かったようですな。特有スキルはなし。知力は『12』、精神力は『15』と……」


そう言いながら、神官は報告書に数値を書き込んでいった。話が分かる神官で助かったとヒースは胸を撫で下ろしたのだった。

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