第6話 悪人は、洗礼式に向かう

それから、4年が過ぎ、ヒースは7歳となっていた。


「おにいさま。どこにいかれるのですか?」


4歳になり、益々かわいさに磨きがかかってきたカーテローゼに、ヒースは微笑みながら告げる。


「今日は、教会に行って洗礼を受けるんだよ」


「せんれい?」


「う~ん、そうだな……特別な力を授かりに行くんだよ。ホラ、去年テオ兄さんが、剣がうまくなったって言ってたでしょ?あれと同じことをしに行くんだよ」


「???」


「……カリンにはちょっと難しかったかな?」


「むうう……ばかにしないでください。にいさまのおことばづかいが、へたくそなだけなのです!!わたしはおりこうさんなのです!!」


プンプンと怒り始めたカーテローゼに、「わかった、わかった」と笑いながら宥めるヒース。


「若様。そろそろ、お時間です」


すると、最近、ヒース付の小姓として取りたてられたテオに声をかけられた。


「わかった。すぐ行く」


そう言って、ヒースはカーテローゼに別れを告げて玄関へと向かった。





「さて、どのようなスキルが与えられるのだろうねぇ……」


「御父君も御母君も、どちらも魔法使いだったのでしょう?それなら、若様も魔法に関するスキルなのでは?」


教会への移動中の馬車の中で、テオはそう言った。この世界では、親のスキルが子に受け継がれるのが一般的だ。ゆえに、万一、どちらのスキルも受け継がず、異なるものになった場合は、不義の子ではないかと疑われる。


(そう言えば、昨年、王女が国王とも王妃とも違うスキルを発現させたということで、修道院に送られたって話を聞いたっけ?)


さらにいえば、王妃は離縁されて実家のある隣国に帰されたと聞く。


つまり、この洗礼式というシステムは、血筋が正しく次代に伝えるために編み出されたものといえるのだ。


(まあ、ワシの場合はもし違っても廃嫡されることはないがな……)


母が嫡女である以上、たとえ不倫相手の子であっても相続権は否定されない。だから、昨年の王女のように哀れな末路を辿る心配はない。だとしても、やはり父母の子であった方がうれしいのはうれしい。


「さあ、着きましたよ」


馬車が止まり、テオに促されてヒースは外に出た。


(これは……南蛮寺の比じゃないな……)


事前に聞いていた話から、前世で見た南蛮寺をイメージしていたヒースは度肝を抜かれた。色鮮やかなステンドグラスに至る所に使われている金の装飾。一体、いくら金をかけたのだと率直に思った。加えていうならば、どこの世界でも坊主は儲かるのだなとも。


「ルクセンドルフ伯世子様でいらっしゃいますね」


宣教師のような男が現れて、声をかけられた。


「いかにも」


「では、こちらへ」


多くの者が列を作って並んでいる中、ヒースは宣教師に導かれてそれらを追い越して中へと進む。そして、豪華な小部屋に案内されて、そこでしばらく待つようにと告げられた。


「さすが、領主の息子相手だから、いたせりつくせりか……」


目の前のテーブルには、ケーキとジュースが置かれている。味も悪くない。そして、それが食べ終わるのを見計らっていたようなタイミングで、神官が現れて先の部屋へと通された。


「ほう……」


思わずヒースは言葉をこぼした。あれだけ同じように洗礼を受けるために多くの者が列を作っていたというのに、この部屋には自分と神官の二人しかいない。


(おそらく、不測の事態があった時に備えた配慮なのだろうな)


まずいことがあれば、闇から闇に葬るのは、どこの世界でも同じようだとヒースは思った。


「さあ、ヒース様。この水晶に手をかざしてください。あなたの中の素晴らしいお力が、発現されることになります」


神官の言葉に頷き、ヒースは右手をかざした。

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