第4話 悪人は、父の浮気話を仲裁する

「それで、これはどういうことかしら?」


「あの……奥様……」


「あなたは黙ってなさい!!わたしは今、うちの旦那に話してるの!!泥棒猫は口を噤みなさい!!」


ヒースが3歳になってからしばらくたった時、ついにオットーとアンヌの関係が母であるベアトリスの知る所となった。


(しかし、まだ続いてたとは……)


あれからしばらくは、母の目を盗んで時々逢瀬を重ねているのは知っていたが、1歳を半ば過ぎた頃に乳離れをしてからはアンヌが屋敷に来ることがなくなったので、関係は終わったものと思っていた。だが……。


「……しかも、そのお腹の子はアンタの子ですって!?ふざけるのも大概にしてもらいたいわ!!」


……アンヌのお腹はすでにかなり大きくなっている。あの中に弟か妹が入っていると思うと、母が怒るのは無理からぬ話だ。


「離婚です。ええ、離婚しますわ!!二人そろってとっとと出て行きなさい!!」


……実は、我が伯爵家は、母が嫡女で父は婿養子だったりする。その事実をヒースが知ったのは最近だったが、にもかかわらずこのようなことをやらかした父を大したもんだと素直に思う。無論、褒めているのではなく、呆れているのだが……。


「ま……待ってくれ!!ベティ!!気の迷いだったんだ!!この通り謝るから許してくれ!!」


「奥様……どうかお許しを!!」


(この世界でも、土下座ってあるんだ……)


ヒースは見事な土下座を披露する二人を見て、淡々とそう思った。


(さて……そろそろ助け舟をだしてやるか)


生まれた子が弟ならばパシリに、妹ならば政略結婚の駒に使えるのだ。次期当主としては悪い話ではない。そう思って、ヒースは母の膝の上から飛び降りて、とことことアンヌの下へ歩いていく。


「若様?」


「ふーん。このお腹の中に、ボクの弟か妹がいるんだね。いつ出てくるのかな?ねえ、アンヌ。いつなの?教えてよ」


ヒースはアンヌのお腹をすりすりと触りながら、母に聞こえるように言った。


「……ええと、来月には出てくると思います」


「わあ!!楽しみだなぁ!!早く会いたいなぁ!!」


……最近、鏡を見て思うのだが、この容姿は決して悪いものではない。前世の悪人づらとは真逆の、まさに天使のようなかわいさがある。ゆえに、母に向かって無邪気な笑顔を見せれば、イチコロだと踏んでいる。自分で言うのもなんであるが……。


「ヒース、そんなに楽しみなの?弟か妹、そんなに欲しいの?」


案の定というべきか、母の表情が緩んだ。


「うん!!」


ゆえに、止めを刺すべくここでかわいらしく大きく頷いて見せた。すると、母は大きくため息を吐いた。


「はあ、しょうがないわね。ヒースにそんな顔されたら、ママ、何も言えないじゃないの。わかったわ。離婚は取り下げます」


もっとも、初めから本気で離婚するつもりはなかっただろうと思っている。ただ、くぎを刺すためにやったのだろう。そうでなければ、このような修羅場に幼子を同席させるはずはない。


「ただし、もう二度と二人っきりで会うのは禁止!!二度目はありませんからね?」


「おお、ベティ!!ありがとう!!」


「奥様、ありがとうございます!!」


だが、この二人はそのことに気づいてはいないだろうなぁと思った。まあ、それならそれで構わない。心から反省して温情に感謝しているようだから、もう二度とこのようなことはしないだろう。これで、一件落着だ。

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