第1章 稀代の悪人は、悪事の種まきをする
第3話 悪人は、父に道を踏み外させる
ルクセンドルフ家という、ロンバルド王国に仕える伯爵家があった。公爵家の分家であり、順位は低いものの、王位継承権も持っているという。
そんな家の長男として、ヒース・フォン・ルクセンドルフという名の御曹司として、久秀は生まれかわった。
(ほう……あの女神、なかなかやるではないか)
周りを見渡せば、以前、南蛮人の教会や商館で見たような舶来品が至る所に飾られているが、どれもこれも明らかに高価そうなものばかりだ。
「ヒース様。そろそろ、お乳のお時間ですよ」
そして、極めつけはこの乳母だ。戦争で夫を亡くしたらしいが、所作振る舞いを見れば、そのあたりの農家の女ではないことはわかる。つまり、身分もさることながら、それなりの裕福な家に生まれたということを、久秀こと、ヒースは理解した。
(それにしても、この感触。たまらんわい)
乳母の名はアンヌといったが、金髪で色白な美人な女で乳も大きかった。抱きかかえられたヒースは、何も知らないこの女の乳房に吸い付くと、舌を駆使して蹂躙した。
「あ……」
時折、アンヌの声が漏れる。しかし、ヒースはやめない。こんな赤子の姿になっては、これくらいしか楽しみはないのだ。ゆえに、心行くまで堪能すると決めている。
そんなこんなで、ヒースが楽しく乳を吸っていると、父親であるオットーが現れた。
(ん?めずらしいな)
ヒースは率直にそう思った。可愛がってくれないわけではないが、仕事が忙しいらしく、生まれてからすでに1年近く経つが、滅多に姿を見ない男だ。
「アンヌ。ヒースの様子はどうかね?」
「だ……だんなさま……」
「ん?どうした。顔が赤いようだが……って、ごめん。授乳中だったか」
(わざとらしい。もしや狙ってたのか?)
オットーは申し訳なさそうにしているものの、その視線はアンヌのはだけた乳房にくぎ付けとなっている。
だが、おそらく覗き見をしに来ただけだと推察する。ヒースの母親であり、この男の妻はとてつもなく恐ろしい女なのだ。浮気をしてただで済むとは思えない。そのことは、この男ももちろん知っている……はずだった。
「あの……その……」
しかし、アンヌの様子はおかしい。顔は紅潮し、息は荒い。その理由にヒースは思い当たり、頭を抱える。やり過ぎた……そう思った。
「具合が悪いのか?」
一方、まさか赤子の息子がそんなことをしているとは思っていないオットーは、本当に心配して熱でもあるのかと、額に手をあてる。だが、発情して肉食獣と化したアンヌがその機を逃すはずがなかった。額に当てられたその手をアンヌはやさしく握ったのだ。
「アンヌ……だめだよ。僕には妻が……」
オットーは、心を揺らしながらも一度は断った。鬼と化した妻の顔を思い浮かべて。しかし……
「だんなさま……一度だけでいいのです。お情けを……」
アンヌは目を潤ませて、オットーの手を掴んだまま、自身の胸にあてた。
何度も言うが、授乳中だったこともあって、アンヌの衣服ははだけており、心臓の鼓動が直接伝わってくる。
「アンヌ!!ぼくはもうっ!!」
オットーの理性は吹っ飛んだ。二人はそのまま激しく唇を重ねた。
……間にヒースを挟んだままで。
(おいおい!!ちょっと待てや!!こらっ!!)
「おぎゃー!おぎゃー!」
上前をはねられたような不快な思いと、この後にやって来る修羅場に慄き、ヒースは止めるべく声を上げた。
(これで、興ざめして帰るだろう……)
今ならまだごまかせる。冷静になればそれに気づくはず。ヒースはそう思ったが、そうは問屋は卸さなかった。
事もあろうか、アンヌは情事の邪魔になったヒースを粗雑に近くのテーブルに置き、再びオットーの元に戻っては盛り始めたのだ。
室内に響く喘ぎ声。ヒースは父に道を踏み外させてしまったことを申し訳なく思いつつ、この場に母親が現れないことを祈った。……但し、その一部始終を凝視しながら。
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