第2話 松永久秀の異世界転生(後編)

「ほう……つまり、ワシは日ノ本とは違う世界で生まれかわるっていうことか」


「はい。私はそのために担当官としてここに来たわけですが……」


そう言って、ルキナはさっきまで盛っていた場所を見る。顔を真っ赤にしながら。


「それで、ワシは何に生まれかわるんだ?人間ってわけにはいかないよな?自分でもいっぱい悪さをしてきたことは知っているから、そんな虫のいい話はないとはわかっている」


「それは……」


「早く言えよ。何を言われても怒らないからさ」


あきらかに言い淀むルキナを見て、久秀はやはりかと確信する。


(まあ、犬でも猫でも別に構わないがな……)


そう大人ぶって余裕をかましていると……


「蜘蛛です。正確には妖怪平蜘蛛。魔王の眷属です」


……と告げられて、言葉を失った。


「久秀さん……久秀さん……あの、大丈夫ですか?」


ルキナは呆然と固まる久秀の目の前で手を左右にさせる。すると、次第に視点が定まってくる。そして吠えた。


「はああっ!?おまえなめとんか!!」


「ひっ!!」


(怒らないって言ったじゃないですか……)


ルキナは心の中でそう呟いた。


「でもですよ、その平蜘蛛はとても強くてゆくゆくは四天王に上り詰めるとか。だから、決して左遷とかではなく……」


「虫とはなんだ!!虫とは!!ワシが坊主どもを蓑虫のように殺したことへのあてつけか!?やり直しを要求する!!」


「へっ!?それは……」


「や・り・な・お・し!!」


(そんな無茶な……)


ルキナは思った。すると、久秀は言った。


「おまえ、女神だろ?職権を乱用してパパっとワシを人間に転生させてくれない?」


「いや、それは……規則に反する行為で……」


「すでに規則違反で下界追放が待っているんだろ?ならいいではないか。罪が一つ増えるだけだ。大したことないよな?」


(うっ……たしかに……)


久秀の言っていることに一理あるとルキアは認めた。


(それならば……)


「わかりました。それじゃあ、久秀さんを人間に転生させることにします。せっかくなので、前世の記憶保持と魔法に関する能力をいくつかつけて差し上げます。それでよろしいでしょうか?」


ルキナは自分ができる範囲の最上限を提示した。これ以上の能力を求められれば、上官の承認がいるため勝手にできない。


「いや、それならば問題ないな。人間にさえ生まれかわれば、あとは何とかなる」


そのことを知ってか知らずか、久秀は異議を唱えなかった。ルキナはホッと胸を投げおろした。


「では、転生の儀を執り行いますね」


そう言ってルキナは錫杖を振りかざした。


「あっ……待ってくれ」


久秀の言葉に、ルキナは儀式を止める。


「なにか?」


「いや……おまえはどうするのかってな」


ぶっきら棒ではあるが、久秀は心配そうに尋ねてきた。その言葉をルキナは嬉しく思った。


「心配には及びませんよ。わたしの転生先も久秀さんと同じ世界ですし。いつかまた会えるでしょうから」


そう言って微笑むと、久秀は「そうか」とだけ答えた。


「では、再開しますよ」


ルキナの錫杖が紡がれる祝詞に合わせて揺れる。その光景を眺めていると久秀の周囲に光が溢れ始めた。そして、視界が次第に歪み始めると、ルキナの姿もやがて見えなくなった。


(いつか、必ずどこかで)


久秀が消えたその空間をしばらく見つめて、ルキナはそう誓うのだった。

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