部屋と紙と(1) [酔っ払いは危ない]

、、、意識が浮上する

佐山がシャワーを浴びている間にうたた寝を仕掛けていたらしい。危ない。寝ていたら奴にどんないたずらをされていたことか。危険極まりない行為である。とんでもなく失礼なことを考えているものだ。

手から落ちた書類を拾う。

嗚呼、危なかった。

これは書類ではなくメモ帳であったか。この紙は後で処分しなければならない。なに、佐山だろうと見られるわけにはいかないちょっとした小説のなりそこないだ。凡人が考えるような詰まらないミステリ、ある意味シンプルではあるが捻りがなさすぎる。

呆けていたら先程までなにか考えていたはずの思考は何処かに行ってしまった。全く、何を考えていたのかも忘れてしまった。なにか、想い出を考えていたような気がする。まぁ、覚えていないのなら然程大切ではないか、本当に夢だったのだろう。夢ならば、覚めたのだから忘れていたところで問題はない。

ビールがぬるくなっていた。

酔いが冷めてしまった自分は、残っていたビールを飲みきった。

風呂場の扉が開く音がした。佐山が出たのだろう。

一枚の紙を折りたたみ塵箱に入れる。

「シャワー、でたぞ」

「嗚呼、浴びてくるからビールでも飲んどけ」

さっぱりした佐山がでてきた。偉いぞ。ちゃんと拭いてから出てきてる。

「なんか、失礼なこと思ってね」

「気のせいだ」

「気のせいじゃないやつだなこれ」

「いや何、ちゃんと廊下を濡らさずに出てきて偉いな、と」

「俺は犬か何かか」

「自分は猫派だ」

「違うそうじゃない酔っ払い」

「酔ってないぞ佐山よ」

「分かりづらいんだよお前の酔いは」

「矢張り猫は良い」

「噛み合ってないなおい酔ってんだろ」

「ビールは美味かった」

「家主頼むから風呂場で逆上せるなよ」

「そんなことはしない」

「フラグですねありがとうございません」

「それはどっちなんだだから」

「そこなのか」

「そこだ」

「おう、シャワー浴びてこい酔っ払い」

「酔っ払いじゃねぇし言われなくても入るわ」

「ドライヤー借りていいか」

「そこら辺にある」

「あざます」

ドライヤーの音が鳴り始める。

それを横目に眺めながら風呂場に歩く。

確かに酔いが回っているかもしれない。絶妙に真っ直ぐ歩けないのだ。誤差の範囲程度ではあるが。珍しく酔えたらしい。しかし仕事があるときに酔わなくてもよいのだが、調節できないのは人間不便なところである。

時計を外す

釦を外す

服を脱ぐ

嗚呼、なんだか脱ぐのすら億劫だ。

流石に逆上せはしないだろう。恐らく。

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