第4話:デートをしよう
「というわけでデートをしようか、海色君」
「……なんでそうなるんですか」
部長と手を組んでから数日後。教室で射手川の視線を時々感じるものの、特に話し掛けてくるわけでもなく、何事も無く過ぎた。佐々木もあの日以来、
だからいつも通り放課後に部室に行くと、部長がまた訳の分からないことを言い出した。
「はあ……君は本当にアレだな……ノリは悪いし、おまけに察しまで悪い」
いつの間にか用意された俺用の椅子に腰掛けると、部長がわざとらしく溜息をつき、がっかり感を全身でアピールしてくる。うぜえ。
「ノリが良かったらもうちょい友達もできてるし、こんな部には入っていませんが」
「そう卑屈にならないでくれ。ただの冗談だよ。ほら、私という、友達兼先輩兼片想い相手というマルチプレイヤーがすぐ近くにいるじゃないか」
「部長が俺の片想い相手とかいう妄想はどっから出てきた」
「そういえば、
急に話題を変えやがった。まあ、いつものことではあるけど。
「ええ。でも、多分大した情報はなかったですよ。写真も不自然なほどに少ないし、島の風景とか見ても何もピンと来ませんでした」
今どきストリートビューすらないのには驚いた。wikiすらもなくて、やっと見付けたのはこの雨花市の公式ホームページにある歴史紹介ページだけだ。
ホームページから得られた情報は、以前佐々木に聞いたものとほぼ変わらない。
主な産業はやはり、漁業。特に島の周辺は豊かな漁場らしい。
「
部長がそんな補足をしてくれた。
「にしたって漁業しかない小さな島出身の人達が、定期船の運航はともかく、こんなデカい学園まで経営しているのは凄いですね」
「おそらく表に出ていないだけで、もっと色んなところに潜んでいると私は考えている。市長、あるいは知事クラスにまで食い込んでいる可能性はあるね」
「……流石にそれは、なんというか陰謀論めいてますよ」
「そうでもないさ。君も聞いたと思うが、
そう言って部長が、何やらコピー用紙を俺に渡してきた。
「……卒業生の進路リスト?」
「うちの卒業生がどこの大学や企業へと進んだかが分かるやつだよ。ハイライトしているのが、
非合法って。
この部長、前々から思っていたが結構ヤバい奴だな……。
とか思いつつ、黄色くハイライトされた部分を見てみる。
「……俺でも聞いたある大学や一流企業ばっかじゃないですか」
「本人が優秀でかつルックスもいいなら、不思議ではない。そしてそういう女性がその先々で優秀な男性を捕まえ、故郷へと戻ってくる。するとさらに優秀な子が産まれ……といった連鎖があれば、何も不思議ではない」
「そう言われるとそんな気がしてきますけど……そう都合良くいけますかね?」
「だが事実、そうなっている」
「うーん。まあ、とりあえずそれはいいとして、あんまり俺の記憶とは関係なさそうですね」
俺は
「君の記憶については、特にデリケートな部分なのだろう。それらしき事故や事件の記録は一切見当たらなかったよ。当事者に聞くしかないが……誰が何をどこまで知っているのかすら分からんだろうね」
「ですね……」
「いずれにせよ、ネットで調べられるのはこの辺りが限界だろうさ」
部長がそう言って、立ち上がった。
「ここからは自分の足を使うしかない。おそらくだが、意図的にネットに情報を載せないようにしていると思う。ならば、アナログなところから調べるしかない」
「つまり?」
「つまり……私と図書館デートをしよう――ということだよ、海色君」
部長が笑みを浮かべ、俺へとその細く小さな手を伸ばしてくる。断られるわけがない――そう信じて止まない顔だ。
ああもう。そんなことされたら、嫌とは言えないじゃないか。
「デートとか言うからややこしいんですよ」
「高校生の男女が二人で校外に行くとなったら、それはデートだろうさ。古事記にもそう書いてた」
「嘘つけ」
「古今和歌集にもそういう歌が――」
「いくら俺がアホでも、それがデタラメなのは分かりますって」
「むー。私がデートと言えば、デートなのだ」
部長が子供みたいに頬を膨らませて、俺を睨んでくる。ほんと、美少女は何しても可愛いからズルいよな。
「はいはい……で、いつ行きますか?」
俺がそう聞くと、部長が伸ばした手で俺の腕を掴んだ。
「今――に決まっているだろ」
「ですよね」
分かってはいたけども。
俺が立ち上がって、床に置いていた鞄を取ろうとした時。
部室の空気が変わった、気がした。
「ん?」
部室の扉がコンコンと、叩かれる音。
「……失礼しまーす」
そんな声と共に、扉が開く。
俺と部長が同時に、扉の方へ目を向けた。
そこに立っていたのは。
「おや……おやおやおや、君みたいな人気者が、こんな吹きだまりに何の用だい――
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