第2話

 前話でもお話した通り、私は札幌で働いておりました。

 詳しくは書けませんが、訪問販売の営業だと思ってください。


 どう考えてもこんなコミュ障に出来る仕事ではありません。とはいえもちろん、最初から営業を志して入社したわけではありません。希望する業種ではなかったのですが、新卒はまず営業からスタートと言われてしまったのです。


 コミュ障はコミュ障ですが、仕事と割り切ればどうにかなったりするもので、最初の数ヶ月はむしろ成績は良い方でした。が、もちろん無理してますので、ちょっとずつ崩れてきます。そうなるともうどうにもならず、あっという間に成績は地に落ち――、という経緯での異動というわけでした。


 成績が良かった時は、営業部の中でもトップの班に入れられておりました。その支社の売り上げトップの係長が上司でした。ルパンみたいな体型の、すらっとした男性で、当時30代半ばくらいだったと思うのですが、高級時計を身に着け、車も何かデカいやつでした。その班は私以外の新卒は二人いて、クール系の美人と可愛い系の美人でした。顔で選んだんじゃないのか、なんて所長は笑ってました。まだそういうのが許されるというか、許されてるわけじゃないけど、セクハラです、なんて声を上げづらい時代でした。あっ、私は美人枠ではないです。


 けれども成績が落ちると、三人仲良くその班から外されました。一応表向きは「別の人間の下について勉強した方がいい」という理由でしたが。その頃にはそのクール系と可愛い系とも仲良くなっていて、一緒にご飯に行ったりもしておりましたので、「ウチらそろそろ飛ばされるんじゃね?」みたいなことも話しておりました。同期が次々と飛ばされたり自主的に辞めていく中、私達は驚きの粘りを見せ、結局、一月に私と可愛い系は県外へ異動となりましたが、クール系は支社の閉鎖まで残りました。私達の異動の時点で二十人いた同期は四人くらいになってました。


 さて、新しい班でのお話です。

 その班のリーダーは年下でした。年下といっても、高卒で入社しているため、社歴は当然私よりも長いです。いくつ下なのかは覚えてませんが、お酒を飲んでいたので、確実に二十歳以上です。割と背の低い、やんちゃな感じの男性で、とんでもないイケメンでした。イメージとしては、オラついた小池徹平さんです。なので、ここでは小池リーダー(仮名)としておきます。


 小池リーダーはとにかく俺様男子でした。

 入れ替わりの多い職場で、昨日までいた先輩がある日突然来なくなったり、なんてこともざらにあるようなところで、オンとオフをしっかり切り替えられないと精神が崩壊するような仕事内容でしたが、休日出勤、サービス残業当たり前の時代だったこともあり、休みの日でも仕事のことが頭から離れません。同期は毎月、下手したら一週間ごとに減っていきました。


 そんな中でも、小池リーダーはタフでした。

 売れてる時も売れてない時もあまり変わらず、俺様でした。


 売れなかったということはその人にはそれが必要なかったってことであって、自分が否定されたわけではない、だから落ち込む必要はない。そんなようなことをよく言ってました。年下だし、見た目も童顔だけれども、先輩に対してもガンガン意見するし、いつも偉そうだし、何かすごい人だなと思ったものです。「俺、お前のこと年上とか思ったことないわ」ってしょっちゅう言われていましたが、私の方でも、『小池リーダー』という生き物として認識していたので、なんかもう年下とかあんまり考えてませんでした。ふとした折に「そういうやこの人年下なんだっけ」と思い出す程度でした。


 出張とかに行くと、もちろんパシリにされていました。「宇部、風呂沸かしとけ」とかよく言われてました。この人、結婚したら亭主関白タイプなんだろうな、なんて考えながら風呂の用意をしたものです。

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