4-19 行き倒れ

 中に入ると穢れ払いの札がいくつか落ちていた。


「どうやら先客がいたようだな」


 ゆらのように索敵の能力者がいたのか、あるいはたまたま穢れ祓いをしようとして見つけたのか、今回の捜索対象者かどうかはともかく、ここに入り込んだ誰かがいたのは確かなようである。


『……セイン様、あれを』


 その異変に、ゆらが初めに気が付いた。セインとサキ以外、全員が腰をかがめて前方に進んでいたが、行く先に人らしきものが倒れていた。一見、ぼろきれが落ちているのかとも思ったが、ごつごつした地面につっぷした成人男性のようだった。

 岩肌と同化した灰色のズボンと、薄汚れた白いシャツ。髪の色は白髪交じりの黒髪だと思ったが、白いのは埃のようである。


「人か? ……あ、痛っ! くそ、頭打った」

「ゼフさん、むやみに動かないで。僕が、見てきます」


 大柄なゼフパーティが一斉に動こうとして、あちこちに身体をぶつけ、更には三人が団子状にになってジタバタしている。


「こら、俺が見に行くから……ちょっ、押すな」


 セインがそれに近づくのをゼフは止めようとしたが、なにしろ通路に大人三人が詰まった状態だ。セインはゼフに大丈夫だからと合図して、倒れている人物に近づいた。

 実のところ、ツクとゆらが先に相手の様子を確認していた。

 ツクの見立てでは、栄養失調の痩せた人間の男で完全に気を失っており、とくになんの異能も感じられないとのことだった。

 その男の横に屈み、頬を軽く叩いて声を掛けた。


「ゆら、気脈を見てくれ。大丈夫そうか?」

『……衰弱してますが、大丈夫です。少々邪気を祓って整えましょう』


 青ざめた男の肌が、じわじわと赤みを取り戻し、やがて指先がぴくりと動いた。固く閉ざしていた瞼が、ゆっくりと開く。髪色よりやや薄い茶色の瞳は、どこか呆けてきょとんとしていた。


「……あ、れ?」


 ようやく自由を取り戻したゼフが、小さく身を屈めて倒れた男を覗き込んだ。


「セイン、どうだ?」

「たった今、意識を取り戻したところで……」


 セインがそう答えたところで、男ははっと正気に戻ったように、勢いよく頭を上げた。同時に、ゴツ! と、鈍い音とともに男の悲鳴にならない呻き声が、狭い空間に響いた。

 そのままセインの手を離れて、床をゴロゴロと悶えている。


「だ、大丈夫? ものすごい音したけど」


 セインが声を掛けると、その男はようやく額を押さえつつ顔を上げ、他に人がいることに気が付いたようだ。


「……え? こ、子供がどうして、とういうか、誰?」


 その男は、まずセインとサキの姿に驚いた様子だった。そして、後ろにいるハンターであろうゼフたちの姿を見て、助けが来たと思ったのかあからさまにホッとした表情を見せた。

 けれど、やがて額から流れる血に驚いて、またもや失神してしまった。

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