4-18 サーチ

「うわ、なにを! ハク、出して! そんなもの食べたら……」


 セインは慌てたが、ゼフは笑って見ている。魔物の中には鉱物を食べる種類も普通にいるので、大方、そういった種類の魔物だと思ったのかもしれない。

 開拓チームの調査以外で鉱石を採掘してはいけないが、拾ったものについては所有権を主張できる。そういう意味では問題はないが、もちろんセインが慌てているのはそこではない。

 なんとか吐き出させようとしたが、それをツクが止めた。


『主よ、落ち着くのじゃ。どうやらこれはハクの能力のようじゃよ』

「の、能力? 石を食べることが?」


 石を口にした後、落ち着きなく同じ場所でぐるぐると回っていたハクが、セインの方を見た。


『ほれ、主よ、手のひらを上にして出すのじゃ』

「……手を?」


 言われるままにハクの前に手のひらを差し出すと、ハクがちょっといびつな銀色の塊を吐き出した。かなり大きさは小さくなったが、それはもう石ではなく完全に金属だった。


『純度の高いミスリルのようじゃな。これ一つで、結構な金額になる』


 すなわちハクの能力は鉱石から不純物を取り除き、純度の高いインゴットにできるということだ。他にも応用はできそうだが、今はそれだけでも十分すごい能力である。


「マジか、すげえな。なにがどうなってんだ、それにしても見たことない魔物だが……」

「……そ、それより、さっき何か言いかけたよね?」


 ハクの能力や素性に、ゼフが興味深そうに喰いついてきたので、セインは強引に話題をすり替えた。


「ん? ああ、それな。いや、落ちてた鉱石がどうとかじゃなくてな。ここは先日も隅々まで調査したし、開拓チームもさんざん歩き回って脇道がないか確認している場所なんだよ、だからな……」


 そんな場所に鉱石が落ちていれば、誰かが拾っているし、ましてやミスリル鉱石なんて落ちていたら、誰も気が付かないなんてことはないはずだという。

 落石や戦闘によって壁や天井から鉱石が転がり落ちることはあるが、最下層のこの場所は、それこそ塵一つ落ちてないくらいに調査の手が入っている。


「どこから転がってきたものか……ということか」

『セイン様、私の結界で探ってみましょう』


 コウキの炎の結界と違い、ゆらの水の結界は繊細で、使いようによっては索敵にも適している。水面に広がる波紋のように、物質以外の異物に触れると反応するのだ。それは、人為的な異能も例外ではない。


『……この先にも、空間があるようです。多少特殊な空間ですが、異空というより自らの身体と幻惑を併用した擬態ですね』


 ゆらは感じたままを話したが、セインにはすぐには理解できなかった。


『主よ、ぐずぐずするでない。ほれ、穢れ祓いじゃよ』

「穢れ払い? あ、そうか」


 それが魔物の身体の一部であるなら、確かに効果があるはずだ。

 手当たり次第に札を貼っても、これを見つけることはできなかっただろう。、と断定できなければ術を破ることは難しい。

 セインはすぐに札を取り出して、ゆらが指定した場所を囲むように四枚の札を貼った。さらにもう一枚、幻術を完全に破るために、術封じの札を刀印を結んだ指でなぞった。


「真を糺し、邪を退けよ」


 小さくセインが口ずさむと、指で挟んだ封じ札は妖力が満ちてピンと立つ。それをカードのように放つと、目にも止まらぬ速さで固いはずの岩壁にサクッと刺さった。

 

「うわっ!? な、なんだ」


 すると、生き物のように岩壁がぶるぶると震えて二重に歪み、そこには人が一人入れるほどの大きさの空洞がぽっかりと開いた。


『うむ、いい判断じゃ。穢れ払いをしただけでは、わずかな間しか入り口は維持されず、下手をすれば閉じ込められると思ったのじゃな?』


 セインはツクに頷いて、ぽかんと口を開けているゼフを振り返った。


「先があるようだけど、行きますよね?」

「……お、おう、もちろんだ」


 なにか言いたげなゼフだったが、今は呑気に問いただしている時ではないと思いなおしたようだ。すぐに気を取り直して、これから突入するにあたってリーダーとして注意を促した。


「これだけは言っておく、俺たちの目的は討伐ではない。ボスに遭遇する危険がありそうなら、迷わず捜索を中止して脱出を優先すること。いいな」

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