4-17 最下層
ヌシがいる限り、いくら魔物を討伐してもどこからともなく寄ってくる。しかもヌシ自体も、魔物を発生させる土壌を育ててしまうのだ。
開拓チームの最後の仕事は、このヌシの討伐なのである。
「親玉みたいなものか……ツク、何か感じるか?」
前方を歩くゼフに聞こえないように、セインは小声で話した。
『そうじゃのう、いるといえばいるような気もするのじゃが、何かが邪魔してはっきりせんのじゃ』
『……これは、結界でしょうか?』
ツクの後に、ゆらが続く。どうやら彼女たちにも、まだ確信は持てないようだ。
ヌシという呼称はいわゆる俗称で、魔物やそれに類するモノが一定のコロニーを形成すると、なぜか現れる核のような存在らしい。そこに住み着いた魔物たちの頂点に立つ
「あるいはヌシがいない、ということは?」
「今までは一度もないが……だからといって、違うともいえない。それで調査を終了すべきか、ここの所有者も頭を悩ませているんだと」
セインが問うと、ゼフががりがりと頭をかいた。
それはそうだ。商業採掘がはじまって、ロクに身を守れない作業員が襲われでもしたら大変なことになる。
ゆらが言うように、結界なり何かがあるなら、近くに行けばもっとはっきりするかもしれない。とにかく今は捜索を進めるしかない。
「……ゼフさん、ココが最深部ですか?」
「ああ、前回来た時と同じだ。なにもない、ただ広いだけの空間だ」
それまでの階層と違い、最深部はただぽっかり空いた広間だった。道に迷いようのない、ただごつごつした地面が広がっているだけだ。
「そういや昨日今日と、開拓や調査を請け負うパーティと鉢合わせしなかったな。いよいよ雇い主と今後のことでも相談してるかなあ」
ゼフは冗談交じりに笑ったが、案外そんなところかもしれない。討伐目的らしきパーティとは、三十階を過ぎたころからちょくちょく遭遇したが、この最下層を発見したのが一年も前だと聞くし、所有者もいい加減痺れを切らして当然だろう。
セインも壁や床を触って、ツクやゆらが言っていた結界の痕跡でもないかと探していたが、何のとっかかりもない拓けた空間を探るのは、それなりに骨が折れそうである。
その時、いきなり首に巻きついていたハクが地面に下りた。
ゼフたちの足元をかすめるように、その白い毛玉は驚くほど素早いスピードで、かなり距離のある反対側にまで一気に走って行った。
「……う、うわっ、なんだ魔物か!?」
「ま、ま、待って、それ僕の式……っ従魔だから!」
思わず剣を構えたゼフに、セインは慌てて制止してハクのところまで走って行った。というか、あんなに短い足の癖にめちゃくちゃ走るのが速い。それこそ走るというより、滑るような勢いだった。
「……ん? これは石、か」
ハクの目的は、側面が少し金属に見える灰色の石だった。
『うむ、これはミスリルじゃな。なんでも魔法に強く、盾や防具に重宝される、とあるのじゃ……まあ、わしにはよくわからんが。ともかく結構レアな鉱石らしいな』
理解できないが知っている、という感覚に相変わらずツクは混乱しているようだ。ともかくセインは、様子を見に来たゼフにありのままを話した。
「たぶんですが、ミスリルだと思います」
「ミスリルだと? 確かにここは、金属の鉱石が期待されているが、それは鉱山主は大喜びだな。でも、おかしいな……」
「おかしいって……あっ!? こらハク」
ゼフと話していると、セインが手に持った鉱石をハクがパクッと口の中に入れてしまったのだ。
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