4-12 ぷよぷよ石
残り物の依頼と、いつものシャルロットの依頼を手に、最近よく来る鉱山にやってきた。
ここの鉱山は、まもなく商業化するとも言われる成熟した場所だ。すでにハンターが入るようになって、五年ほど経つ。状態としては最後の仕上げに入っているらしく、彼らが倒した魔物のおこぼれや、調査の際に落ちた鉱石の欠片、魔獣がいてこそ採取できる植物などはほぼ狩りつくされている。
「かなり奥まで行かないと、ろくに採集もできないな」
セインたちはほとんど駆け足で地下五階まで降りてきた。整備されているのでさして時間はかからないが、何しろビギナーランクはその日のうちに退出しなければならない。難癖をつけてきた双子のせいで、採集時間まで短縮されてしまい、なにもかもが押している状態である。
「今日は下見で終わりそうだな……サキ、もうそれ以上進まなくていいぞ」
「わかった、です……あれ?」
「ん? どうかしたか」
「これ、この石……ぶよぶよしてる」
一見すると何の変哲もない石だが、指でつつくとぷよんとはじき返してくる。
「まさか、ジェリー石? おかしいな、この辺りはとっくに調査は終わってるはずだが」
ジェリー石は、柔らかい身体を持つジャムという魔物が、石などを溶解したときに身体から排出される物質である。軟膏や湿布、はては薬にとろみをつけるために用いる汎用性の高いものだ。
それほど高価なものではないが、問題なのはそこではない。
それがここにあることが問題なのだ。この鉱山は地下三十八階まであり、まもなくすべての調査が終わると聞いている。
本来なら魔物の痕跡があってはいけないのだ。
……とはいえ、ジャムは岩場の暗闇を好む魔物で、とにかくそこかしこにいる。下手をすると、民家の軒下の石の裏などにも小型のジャムが入り込むことすらあるのだ。
「サキ、せっかくだからジェリー石は全部回収して」
手早く採集を済ませて、セインはギルドへ報告へ向かうことにした。この鉱山は思った以上に深く、所有者の目論見をはるかに超えて五年という長きに渡って調査が続けられている。もしかしたら、開拓を急ぐあまり調査済み地域の見回りが、多少おざなりになってしまっているのかもしれない。
「他に採集者はいないようだけど、念のため穢れ払いをしておくか」
ジャムは岩場に隠れて、いきなり飛び出してくる魔物である。それほど強い魔物ではないが、鉱山に出現するクラスになるとやはり油断はできない。初心者でもこの辺りまでなら降りてくるので、簡単な封じ込めをしておこうと思った。
二枚の札を取り出して、素早く指で刀印を結んで文字をなぞると、一枚を貼りつけ、もう一枚を指に挟んで手を合わせる。
「清めよ、祓え、闇潜む魔を縛れ、我が命ずる。急急如律令!」
セインの声とともに、その辺り全体の岩がざわっと動いて、すぐに時が止まったかの如く、しんっと静まった。
『……セイン様!』
その直後、ゆらが警戒するような声を掛け、振り向いたセインを庇うように、サキが素早く回り込んだ。コウキもフードから飛び出してセインの肩に乗り、ハクは首に巻きついたまま黄色い目をぱちりと開いた。
「待ってくれ、気配を消して近づいたのは悪かったが、こちらも警戒していただけだ」
両手を上げて無害をアピールしつつ体格のいい男と、その後ろに二人の背の高い男女が、岩影から現れた。その装備から、そこそこ上位のハンターのパーティだと思われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます