3-19 報酬2

 鉱山からの帰り、ギルドで報酬を受け取ると、セインは宿屋へ帰った。

 今回の事件のことで、ギルドマスターが会いたいとのことだったが、後日改めて伺う旨を伝えた。さすがのセインも、これほど予定外のことが続いては、ちょっとばかり小休止が欲しかった。


「初報酬ですね、ご主人様」

「ああ、そうだな。金額的には大したことないが、結構嬉しいな」


 サキに答えつつ、セインはベッドの上に、銀貨一枚、銅板三枚を並べた。これは一日分の報酬なので、通常三日ほどかかる調査なら銀貨四枚は貰える仕事だ。贅沢をしなければ、宿屋に一週間ちょっと滞在できる計算だ。

 確かに、ほぼ見回りと、お守り札を貼るだけなら悪くない仕事である。


 ――うん、いいな。結構、得意分野だし、この分なら割と効率がいい。それに慣れてきたら、未開鉱山の開拓済みエリアの採集とかも面白いかも。


 調査中の未開鉱山でも、徐々にマップが作られ、魔物討伐が終わったエリアがある。開拓が終わった場所での採掘活動は禁止されているが、植物や湧き水などの採集に限って許されている。もちろん稀に魔物が出ることもあるし、穢れも発生することも多く、必ずしも安全とは言えない。

 だが、魔物が存在することで成長する植物や、変化する水などもあるので、そういった採集依頼には一定の付加価値がついたりもするのだ。


「それと、コレ」


 そして、例のデコボコした金鉱石をその横に置く。


「あ、最後に貰った……石?」

「加工しないと、金は取り出せないし、見かけは石だね。でも、変な形してるな。なんだろう……これ、見ようによっては動物に見えなくもないかな」


 手に取って、縦にしたり横にしたりして、こぶし大の石を眺めた。


『なにか、独特の波動を感じます。かなりの金が含まれているようです。セイン様、これは使えるのではないでしょうか?』

「……ん? あ! そうか。そうだね」


 恥ずかしながら、当初の目的を忘れかけていたセインだった。もともとは、白虎の形代になる金を手に入れるためにハンターになったのだ。

 白虎の復活を忘れたわけではなく、手段が目的になってしまっていた。

 護衛ハンターを雇うための資金をためる、という手段が、最終目標のつもりになっていたのだ。


 ――金鉱石が手に入ったのなら、それで御の字。もうハンターをする必要は、ない……か。


 もちろん、さっそく手に入ったのは嬉しい。けれど、金を取り出す工程がある。なんだか妙に愛嬌のある石の形状が気に入ったこともあり、それを金に加工することが躊躇われた。

 セインは、ベッドサイドの小さな丸いテーブルに、それを置いた。


 ――焦って決めることもないか。これがうまく形代になるかどうかもわからないし、せっかくここまで来たのに一日で帰るとか、ちょっともったいない気もするし。


 正直なところ、もうちょっといろいろな経験がしたいと考えていた。ある意味で、今日の仕事は前世で普通にやっていた仕事と何ら変わらない。

 ましてや不愉快な人物との遭遇もあって、セインのテンションは駄々下がりで、すっかり不完全燃焼だった。


「……コウキ、たまごじゃないぞ」


 テーブルに置かれた石の上に、コウキはうずもれるように乗っかっていた。ひよこなのにタマゴを温めるとか、ちょっと微笑ましくも滑稽な姿である。


 ――明日はどのみちギルドに行かないといけないし、これからのことはまたゆっくり考えよう。

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