3-18 報酬

 小柄なセインの前に、大きな身体をこれでもかとベンは縮めていた。

 だが、それを憐れだとは思わない。ロルシー侯爵家を紹介状もなく追い出されたのは、まぎれもなく自分が招いたもの。

 そして、さらに愚行を繰り返したのだから。


「わざわざ僕から報告することはないよ。だけど、やったことの報いは受けることになるだろうね」


 確かにベンは、今回の主犯格ではないかもしれない。

 ベンなら、たとえ使えはしなくても、呪術や呪札の存在も知っているだろうし、手に入れられる可能性だってある。そうなれば、もっと厄介なことになっていただろうから。

 その後、都市の自警団や、ギルドから派遣された数人がやってきた。さすがに、それほど大事件というほどでもないので、ベンが恐れたロルシー侯爵家の騎士がやって来ることはなかった。

 

「あ、そうだ。ボダンさん」


 お縄になったロッゾとベンが、こちらを恨めしそうに顧みるのを無視して、セインは事後処理に追われるボダンを呼び止めた。


「はい、なんでしょうか、セインさん。そうだ、まずはお礼を言うべきなのに、バタバタしてすみませんでした。この度は、本当になんとお礼をいったらいいか、ありがとうございました」

「いえ、当然のことをしたまでなので。それより、これを」


 調査と穢れ払いが仕事の内容だったので、セインはあっさり受け流し、上着のポケットから一つの鉱石を取り出した。

 ボダンからすれば、ここ数か月に及ぶ不可解な事件を解決したセインが、もっと功を誇って然るべきと思っていたが、なんてことない仕事を終えただけのように淡々としていることに驚いた。


「えーと、はい? これ……は」


 手渡されたそれは、ちょっとデコボコと変な形をした鉱石だった。


「実は、ロッゾと各階を回って例のモノを回収していた時、どこからともなく転がってきて……一応、ここの物でしょうし」

「どこからともなく? おかしいですね、採掘が終わった場所は崩落しないように、石一つ落ちてこないよう補強し、加工してあるんですが」


 ボダンは胸ポケットから、鎖で繋がれた小さな筒状のルーペを取り出し、その鉱石を念入りに眺めた。


「ほう……これは。間違いなく金鉱石ですな」


 一見するとただの鈍い色の石だが、金が含まれた鉱石とのことだ。


「……じゃあ僕はこれで」

「お待ちください、セインさん。こちらを、受け取ってください」

「え? だけど、これはこの鉱山の」

「はい、ですが、採掘が終わった場所で、セインさんが個人的に見つけたものです」


 それは、取って付けた理由に思えた。だが、ボダンはそう押し切ってセインに鉱石を手渡した。穿った見方をすれば、例えば今後のことを見据え、セインを繋ぎ留めておくための手付だったのかもしれない。

 転んでもただでは起きないというやつだ。

 いつもなら、受け取らなかったかもしれない。けれど、セインはそれをすんなり受け取った。

 ボダンに手渡すとき、なぜか後ろ髪を引かれた気がしたからだ。

 今回大活躍だったコウキは、今はサキの手のひらで爆睡中だ。置いてきぼりを食らったサキは、ちょっとご機嫌斜めの様子である。


 ――いろいろあったが、ハンターとしての初仕事、無事終了だな。最たる報酬は、このデコボコした不格好な金鉱石、かな。

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