第四章 ハンター
4-1 白いもふもふ
翌朝、見たこともないものがそこにあった。
「え、なにこれ……」
小さなサイドテーブルには、ほかほかと湯気をあげる丸い桶と、不思議なものが置いてあった。お湯の入った桶はサキが用意したものだろう。
「おはようございます、ご主人様。お湯、それ用意したです。女将さんに食事の準備、お願い言ってくる」
セインが起きたのを見ると、サキは手ぬぐいをセインに手渡して、部屋を出て行った。彼女はすでに準備万端で身支度も済ませているようだ。最近では、セインが言うまでもなく、何事もてきぱきと身の回りの世話を焼いてくれる。
どこかのお付きの召使いとは、雲泥の差である。
――でも、なんだろう。桶を置くときに、この不思議な物体を何とも思わなかったのか? 明らかに昨日とは違うものがここにあるんだが。
白くて丸いモフモフの上に、赤いモフメラなものが乗っている。
昨夜、同じ構図の物は見た。その時は、石の上にコウキが乗っていただけだ。まさかタマゴが孵ったとか? とか考えて、セインはバカバカしい想像に額を押さえた。
「ぴよ」
目が覚めたのか、セインに気が付くとコウキがすっくと立ちあがり、モフモフの上で胸を反らした。すごいドヤぶりである。
「ゆらは、なにか知ってるのか?」
『はい、ですが、その目で見た方が早いかと』
白いモフモフの上からぴょんと飛び降りて、その周りを跳ねるように一周した。そして、またもやドヤッとこっちを見る。すごく褒めてほしそうだったので頭をなでてやったが、セインはそのモフモフの方にくぎ付けになっていた。
小さなモフ山は、と言ってもコウキよりは二倍以上大きいが、ゆっくりと上下している。まるで呼吸しているように。
「生きてるのか……というか、これまさか昨日の鉱石とか言わないよな」
なにしろセインは何かした覚えはない。
指でツンと押すと、ぴくっと反応する。何度か触って、手のひらでふわっと撫でると、ほんのりと体温を感じた。少なくとも、ただの毛玉ではなさそうだ。
すると、丸まっていた毛玉から、モフッとした小さな盛り上がりが現れた。まるで雪だるまのようなそれに、大きくてくりくりの黄色い目が二つ、ゆっくりと瞬きする。
「……毛玉のオバケかな」
セインはいささか引き気味で呟いた。もちろん、わかっている。状況からして、コレは白虎なのだと。
特別なことは何もしていないので初めは驚いたが、それが金鉱石だった時点で形代としての条件はすでに整っていたのだろう。そして、セインの妖力によって蘇ったコウキに導かれて、その用意された形代に宿ったと思われた。
『彼らは封印された私達とちがって、セイン様が転生なされた時には、いつでも解放できる準備はできているのでしょう』
条件の合う形代と、なにかきっかけがあれば復活できるということだ。コウキの場合も、セインが初めて使った狐火が形代となった。とはいえ、彼らが気に入る形代であることは絶対条件で、それがどんなものであるかは実際に復活してみないとわからないのである。
「ようするに、あのいびつな金鉱石を白虎は気に入ったということか」
セインは、毛玉を手のひらで掬い上げた。
「にー……」
「え、それ鳴き声なの? 声ちっさ」
白虎というくらいなんだから、普通はりりしくも勇猛な白い虎を想像するけど、これは仔猫というにも怪しい。
小さな耳が、異様に大きな顔にちょんとついている。見ようによっては毛に埋もれた丸いだけの頭である。見事な二頭身の身体には、これまた恐ろしいほど短い足が四本見える。
こんなぬいぐるみを作ったら、まちがいなく頭が重くて前に倒れるだろう。
あえて言うなら、黒い線の入った模様がなんとなく虎柄ではある。
もし円グラフで能力を見たら、ほぼカワイイ要素で構成されており、戦闘能力は隙間に「その他」とかなってそうな見た目だった。
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