2-13 出発!
必要なものを買って馬留めに戻ってくると、目的の乗合馬車の発車時刻になっていた。
薬類を各種と、フード付きの上着を買った。大都市へ行けば、灰色の髪もそれほど目立たないが、こんな田舎では簡単に身元がバレてしまう。この先、しばらくは埃っぽい場所を馬車でいくのだから、無駄にはならないだろう。
乗車を促す御者の声に急かされながら、セインは大きなリュックを重そうに揺らしながら乗り込んだ。
なんだかんだで荷物はかなり増えていた。
「出発ー!」
乗合馬車の御者に呼応して、騎馬の護衛獣人が「おうっ」と野太い声で答えた。斜め前と、斜め後ろ、それぞれ一人づつで担当するようだ。
ネコ科の大型種だろう前方の人は細身で、左右の腰に短剣と、背中に大きめの剣を抱えている。後方担当も同じ種族だが、かなり大柄でハンマーのような重量級のメイスを持っている。
結構いい面構えで、いかにも出来る感じが頼もしい。
――やっぱりこっちで正解だったな。
そうして馬車は、町から街道へのアーチを通り過ぎた。ここへ来て、ようやくセインは実家を飛び出したという実感が湧いた。
大型の馬車とはいえ、かなりの人数が乗っているのでいささか狭く感じるが、それでも大きな荷物を抱えて乗れるだけのスペースがあるのは助かる。
旅の道連れのコウキは、前に抱えたリュックの上にちょこんと乗っかっている。
ゆらの幻術で、周りからは赤い羽色が珍しいだけの、ただのひよこに見えている。さすがにメラメラ燃えていては、馬車に乗るのは難しかっただろう。
それから馬車で簡単な昼食を取り、ぼんやりと景色を眺めていると、やがて緑が全くない岩と砂ばかりの平地に出た。時間も夕方に差し掛かり、だんだん空が暗くなってきた。
もう少し行くと、わりと大きめな村があり、そこが今日の目的地だった。
街道で夜を明かすのは危ないので、日にちをまたぐ旅ではこうして町や村に立ち寄ることも多い。夜をどう過ごすのかは人によってまちまちで、宿屋に泊まる者もいるし、この馬車で泊まることも可能である。
護衛が野営するので、そこそこ安全は保障されているのだ。
今日は、ここに到着するまでに、二回ほど魔物との遭遇があった。
そのうち一回は戦闘になったが、なにしろ護衛が頼りになるので、乗客は何の心配もいらなかった。
だが、問題もあった。
「なんだこりゃ、魔物の死骸がそのままじゃないか」
「前の馬車も魔物に襲われたんだろうけど、まさか祓い札を惜しみやがったのか。後のことも考えろよな」
護衛の二人がそうやって文句を言うのも無理はない。
簡単な穢れ払いもされず、放置された死骸の穢れに集まってきた魔物に、その後に通った乗合馬車が襲われたのだ。
厄介な魔物ではなかったが、万一にも上位の魔物が穢れで暴走でもしたら、それこそ冗談では済まされない。解体して持ち帰るならまだしも、せめて穢れ払いくらいは済ませておくのは、公共の街道での最低限のマナーである。
――前の馬車というと、あのボロ馬車だろうけど。穢れ払いもしないなんて、プロの護衛のすることじゃないよな。あの商人のことだ、値段をケチったせいで質の悪い護衛でも雇ったか?
彼らも村で夜を明かすと思われたが、いくつかの馬車が集まっている馬留め周辺を探してみたが見つからなかった。気にはなったが、これ以上詮索するほどの関わりがあるわけではないし、仕方がないので諦めた。
その夜、セインは荷物も多かったのでちょっと贅沢して宿屋を選択した。疲れもしっかりとれたし、朝ごはんも美味しかったので、結果的に大正解だった。
ということで、順調にいけば今日の夕方には、ついに鉱山都市マリザンに到着である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます