2-12 旅の仲間

 いろいろあったが、馬車の出発まではもう少し時間がある。今度は飲食店ではなく、薬などを売っている道具屋の方へ足を向けた。


「考えてみたら、回復薬も少し持っておいた方がいいな。あの騒動で気づけたんだから、あれは無駄骨だけじゃなかったってことにしておこう」


 あの奴隷の子供が、少し前までの自分を見ているようで、ついおせっかいを焼いてしまったが、何事も経験を積むにはいい機会である。

 街道を歩いていこうなどと、セインは簡単に考えていたが、あの穢れからみても魔物との遭遇が珍しいことではないとわかったし、気のゆるみを戒めるきっかけにもなった。

 護衛をする騎馬の人たちも、半分は戦争傭兵くずれだというから、かなりの荒くれ者揃いだ。彼らには獣人も多いので、いかにも体力自慢といった感じである。

 

「姉上と父上が、乗合馬車を推すのは当然だな」


 ベンを解雇して以来、セインにお付きの召使いはいない。もちろん侯爵はすぐに手配しようとしたが、この旅には間に合わないという理由をこじつけて断った。

 短い期間に信頼関係を築けると思えなかったし、これから四神を復活させるにあたって、あまり近くに人を置きたくなかったという経緯もある。

 しかも、封印された者たちが解放されたとして、それらはおそらくセインにしか見えないのだ。

 考えただけでも、いろいろ面倒のほうが多かった。

 最終的に侯爵が折れたわけだが、それも今回のセインの行き先が、次男デオルの任地、鉱山都市マリザンだったからというのは否めないだろう。


「あっと、使い終わった札は別にして供養しないとな」


 先ほど拾ったまま、握りしめていた使用済みの札のことを思い出した。

 すると、札を持つ手にちょんとコウキが飛び乗った。握っている手をつつくので、手のひらを広げると札の上を歩いて真ん中あたりで座り込む。

 なんだろうと見ていると、炎の翼を広げて身体を揺すって羽ばたき、トトッとリズムを取るように札をつついた。

 すると、まるで手品のように一瞬にして札が燃え尽きた。


「え、え? 燃えた……いや、これは浄化?」


 ただ燃えたわけではない、浄化と同時にしたのだ。

 驚いてコウキを見ると、ドヤッとばかりにトリ胸を反らしている。褒めてほしそうだったので、セインは人差し指で頭を撫でると、満足そうに肩に戻った。


「手伝ってくれたってことなのかな」


 ゆらと違って会話はできないけれど、それなりに意思疎通できていることに、セインは嬉しくなる。たとえ以前のように話せなくても。

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