2-2 天后

 気を取り直して、セインはゆらに傍らに来るように告げた。

 ひらひらと浮いている状態の彼女は、それに従うようにするりと降りてくる。白い衣の裾を払い正座をすると、うやうやしく礼をとり目を伏せた。

 彼女の姿は半分透けていて、それさえもセインにしか見えていない。


「ところで、お前も形代さえあれば顕現できるのか?」

『……わかりませんが、難しいかと存じます。封印されたまま転生したからでしょうか、私たちの魂は、セイン様のそれと強く結びついてしまいました。封印が解けただけでは、こうして精神体としてお側に控えるくらいしかできないようです」


 このようなややこしいことになろうとは、さすがのセインも予想外だった。


「そうか……」


 彼らの能力は、そのまま魂に刻まれているはずだ。精神体でもそれなりに力は使えるはずだが、肉体がなければ直接的な干渉は難しいということだ。


「ゆらがこしらえた餅菓子は旨かったんだけどな」

『恐縮にございます。私も、お作りできなくて残念です』


 ――あれ? そうか、いやまてよ。方法が、ないわけじゃない、可能かどうかはともかく。でも、やっぱり問題は、能力が足りないってことに尽きるな。


「まあ、今は現実的な方を先にやるか」

『セイン様?』


 完全体ではなかったが、朱雀が蘇ったのは確かなのだから、方法は間違っていなかった。なので、眠りについている他の三体も、条件さえそろえば顕現可能ということだ。おまけとして、ゆらのように封印が解ける者も現れるかもしれない。


「あとは形代か……」


 他の三体。青龍、玄武、白虎。


「朱雀の復活からヒントを得ると、青龍は木なので木彫りの形代とかかな。玄武は水? いや、火の朱雀が炎系の術だったから、ただの水ではダメかもしれない。あとは、白虎か」


 ――金……この場合、普通に金だろうな。もちろん、金なんて持ってない。あるいはフロン姉上に頼めば可能かもしれないけど、人任せっていうのが、なんだか違う気がする。


 なぜならそれは、かけがえのない式たちの核となるものだから。

 そうなると、セインは頭を抱えるしかない

 調達するのが困難すぎるからだ。この世界でも金は貴重で、金鉱山を所有する者は当然だが厳重に管理しており、勝手に入ることができない。

 ロルシー家もいくつか所有しているが、もちろん関係者以外立ち入り禁止である。


「……あ、そうか。その手があった」


 セインは思いついた可能性に、思わず立ち上がった。


「まだ父上は、本邸に滞在中だったな。帝国本土へ行く前に、なんとしても話をつけなくては!」

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