2-3 ハンター

 この世界にはハンターという職がある。

 魔物討伐から採掘資源の調達、または調査。新天地の開拓、安全確保などなど。いわゆる「何でも屋」に近い職業である。そのため、どの都市にもギルドが設置されており、登録ハンターも数多く存在する。

 ちなみにハンターに穢れはつきものなので、分家、陪臣も含め、ロルシー侯爵家から、穢れ払いがあちこちに派遣されている。

 ロルシー家は帝国に属しているので、基本的には帝国の支配国、同盟国、友好国のハンターギルドにしか彼らは常駐しない。穢れを祓えるのはロルシー家だけではないが、やはり能力者の絶対数とシステム化された札の流通に於いて、帝国とロルシー家のタッグに敵うものはなかった。

 とはいえ帝国と言えど、ハンターなしではなしえないことも多く、なくてはならい存在だ。そのため札に限っては、ハンターギルドにのみ、特別にどこの支部にも流通が許可されている。

 ともかく、そういったハンターの仕事の一つに、未開発の鉱山探索がある。

 多くの未開の洞窟は魔物の温床であり、またそれが貴重な鉱石や玉がある証拠でもある。魔物の死骸から魔石が生成されることもあるし、貴重な鉱石を主食とする魔物がいることも、すなわち有力な鉱山である証なのだ。

 これらの魔物を駆逐し、またその道のりを記録し、採掘ランクなどを推定する。

 そのすべてを完了して、初めて商業用鉱山として管理されるのだ。

 それまでは未開鉱山として、鉱山主が指定したハンターギルドへ委託するという手順が一般的だった。その間に採掘された鉱石や駆逐された魔物などはギルドが買取り、素材などを換金または運用し、管理費、手数料などを引いて、鉱山主へ支払うという形だ。もっとも、鉱山主もこの期間の収入はあまり期待していないので、これはギルドやハンターにとっての美味しい仕事だということだ。

 実際にロルシー領には、未開発の有益な洞窟岩窟たくさんあり、ここのギルド支部は有能なハンターをかなり抱えている。ひと昔前には、ギルド周辺は田舎そのものだったが、今では大きな町に発展して鉱山都市とも呼ばれるようになった。

 商業洞窟もかなりあるので、ロルシー家の広大な敷地をぐるりと囲むように、裕福な家も多く存在した。人間の貴族の別邸だったり、大きな商会の屋敷だったりと、その顔ぶれはそうそうたるものである。


「父上に面会を」


 セインは、約二年ぶりに本邸に足を踏み入れた。

 周りにいたメイドや使用人は、セインを見ると一瞬だけ逡巡するような態度を見せたが、すぐに立ち止まって頭を下げた。


 ――どういう噂がされているのか、妙にはれ物扱いだな。


 あの騒動の結果、ビサンドは僻地のハンターギルドに修業と称して派遣された。イゼルはまだ能力が低く、とても外へ出せないので、引き続き下っ端修業に、プラスで体力強化の名目で薪割りに、あとは短冊作りと一日中作業が続く。ちなみにこの短冊作りは、お札を作るという意味ではなく、文字通り大きな紙を短冊に切りそろえる作業だ。

 彼らの母親のアミラは一時的に実家に帰されており、例の秘書は、当然ながら首切りのあげく、推薦状もなく追い出された。

 使用人の何人かは、セインに冷たい態度を取っていた自覚があるのか、顔を見られまいと必死に頭を下げている。


 ――いや、いちいち覚えてないから。むしろ、その態度で気が付いたくらいだ。

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