1-3 灰色の髪

 どう考えても知らない場所なのに、頭のどこかで普段通りの景色だとの認識もある。

 この幼い身体も、なぜかそこまで違和感を感じない。そうかと思えば、同時に痩せた病身を横たえていた白髪の老人であった記憶もフラッシュバックして、思わずヨロめいてしまう。

 地面の浅い水たまりにぼんやりと映る姿。

 灰色のぼさぼさの髪、瞳の色も同じに見えた。

 異常にやせこけた手足に、先ほどの少年と比べるまでもなく粗末な衣服。


「さっきのアレは、兄? なのか」


 記憶があるのか、そこはすんなりと理解できた。どうにも情報が混じって気持ちが悪かったが、憑依の感覚と似通った点もある。ただ、相手の記憶が己と混ざる感覚は今まで経験したことがない。

 まるで、本人であったかのように自らの記憶のように感じるのだ。

 

 ――理由をこじつけるなら、もともとこの身体は自分が転生したもので、晴明としての自我がたったいま蘇った、あるいは思い出した……と、いったところか。


 もとより、そういう世界に生きてきた晴明である。それら事態を、わりと柔軟に受け止めていた。ともかく、今こうしてここにいることだけは、まぎれもない確固たる事実なのだから。

 

 ――さて。

 こやつ、というか自分なのだが、年齢は数えで十、か。それにしても細っこいの。ちゃんと食べておるのか? 手首などぽっきり折れてしまいそうだな。もっと幼い孫たちとて、もう少ししっかりした体格だった気がするが。


「セイン様」


 すっかり思考の彼方にいたので、小さな肩はビクッと揺れた。

 いくつも並ぶ木偶の一つと同化していた人物が、まるで能面のような感情のこもってない顔で近づいてきた。

 そういえば、あのイゼルってやつに殴られてた時もみじんも動かなかったな、とセインと呼ばれた少年は他人事のように冷静な分析をした。


 ――セイン、ね……。


 そして同時に、どこかふんわりしていた自分という存在が、名を呼ばれたことでしっかりと根付いた瞬間でもあった。

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