1-4 ロルシー家

「……そろそろお時間です」


 この広場は、主に幼い子供たちの修練の場所だ。順番で使うので、そろそろ退場してほしい、ということだ。どこか後ろを気にしているところを見ると、早くこの場を去りたいようだ。

 彼の名はベン。「九番目」の召使であることが、あからさまに不満そうである。

 主人の順位が、そのまま下の者の順位。

 気持ちもわからないではないが、とセインはため息をついた。



 この世界には、人間である人族と、亜人である獣人、魔人、人妖にんようがいる。

 獣人は、獣の一部分を有する。もしくは頭や、胴体、足など一部が獣の姿であることが多い。魔人は、人と区別がつかない者もいるし、角や翼を持つ者など多様だ。

 人妖は、普段は人の姿をしており、様々なを持っている者だ。獣人は完全に獣の姿ではないが、人妖は変化すればそのもの本性の姿である。

 もっともこれは大まかな基準で必ずしもすべてではないが、ともかく、獣人と人妖は似て非なるもの、ということだった。

 ちなみに人妖のほとんどは、基本的に他種族との交わりと嫌い、隠れ里などに籠っているので、あまり出会うことはない。

 人狼や人魚、中でも竜人などは伝説とすら思われているのもそのためである。

 そんな中で、妖狐族は異端だった。

 唯一無二の能力により代々神のしもべとして、人と深く交わり重要な神事を行うことで、広く人間世界においてその地位を固めていった。

 人間やさまざまな生き物にとって、有益でかけがえのない能力。

 それは、あらゆる穢れを祓うこと。

 物質的なものも、あるいは形のない物も、ほんのつまらない小さな瘴気も、彼らなしではまともに浄化できない。もちろん、魔法にも聖魔法は存在するが、それらを扱える者はごくわずかで、浄化を得意とする人妖に白羽の矢が立ったという歴史があった。

 鉱石や玉など、豊富な資源と山間の緑豊かな領地を持つ、ロルシー侯爵家。

 かつて聖魔法で名を馳せた名家、今は途絶えてしまったロルシーの姓を帝国より賜り、人妖として初めて爵位を持った妖狐の一族。

 これが、このやせっぽっちで薄汚れた衣を身にまとった少年、セインの生まれた家だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る