20項目 冒険者ギルド


 ……西の最果てにある"ヴィクトリーナ国"に聳え立つ、王城の最上階。



 最も豪華な大広間の玉座に、"若い国王"が座っていた。



 その口元は、緩んでいる。



 ……それは、忠誠を証明する様に跪く"5人の幹部"も同じだった。



「……ようやく、取り戻すことが出来たね」



 若くして国王の座に就いた青年が胸を撫で下ろしてそう呟くと、皆は呼応した。



 ……"ある少女"の姿を前にして。



「はい。まさか、再び"あのスキル"と巡り会えるとは……。懐かしさと安心感で胸が熱くなります」



 一見、キャリアウーマン風のタイトなスーツを着こなす金髪眼鏡の美女がそう涙ぐむと、他の4人の部下も各々の気持ちを口にする。



「そうだな。まさか、容姿まで"似ている"とは思わなかったよ」


 巨石の如く全身が鍛え上げられたスキンヘッドの男は、"その姿"を前に驚く。


「あの時の"悲劇"を思い出して辛くなるです……」



 "魔法少女"を連想させる桃色の衣装を身に纏った空色の髪の娘は、国宝級の杖を片手に過去を思い出して涙目になる。

 


「これで、"アイツ"も報われるかもな」


「感慨深い……」



 銀髪の男女の双子は、"ある人物"を思い出しながらしんみりとしていた。



 ……しかし、そんな感動の空気が漂う最中、粗末な剣を背中に背負った"張本人"は、訳がわからずに首を傾げる。



「"アイツ"とか、誰の事を言っているの……? 確かに、"あの時"、助けて貰ったのには恩を感じているけど……。これから、あたしはどうなるの……」



 突然に、玉座に呼び出された事に困惑しつつ、そう問いかける。



 ……すると、国王はニコッと笑った。



「何もないよ。少しだけ、"手伝ってもらいたい事"があるだけさ。それはきっと、この前、窮地の中でキミが口にした"目標"を達成する上でも、必要になるはずだよ」



 そんな返答を耳にすると、少女の心の中には"期待感"が芽生える。



「……本当に、"元の世界"に帰る手掛かりがあるの……? 」



 目の輝きを取り戻した彼女の純粋な質問に対して、彼は優しく頷いた。



「もちろんさ。でも、その為にはキミの"スキル"が必要なんだ」



 ……少女は、彼の言葉を聞くと、小さく深呼吸をする。



 彼女には、何に代えても叶えたい"夢"があるのだ。



 それは、元の世界に戻って……。



 だからこそ、迷う必要はなかった。



 故に、即決で覚悟を決めたのである。



「……もし、それが叶うなら、あたしは"このスキル"を使って、あなた達に協力する事を厭わない。もう一度、彼に会える可能性があるならば、断る理由が見当たらないし。それに、また"あの地獄みたいな時間"に戻りたくはない。あたしにも、"守るべき大切なもの"が出来た訳だし……」



 すっかりと彼女が納得した事で、国王は再び口元を緩めた。



「……ならば、キミには、我が国家で7つある幹部の役職の中で空席だった、"聖騎士"の座に就いて貰おう。もちろん、戦闘に関しては最大限のバックアップをするし、あの一緒に居た"小さな女の子"の身分も保証するさ」



 その言葉に、少女はホッとする。



 ……これで、全てが……。



 心の中でそう思うと、彼女は他の"幹部"と同様に跪いたのであった。



「あたし、"宝穣芽衣"は、元の世界に帰るその日まで、ヴィクトリーナ国の初代国王であられる"すめらぎ かなで陛下"に忠誠を誓いますっ!! 」



 彼女の声を聞くと、皇は満足げな顔をした。



 だが、すぐに真剣な表情へと移り変わる。



 ……そして、部下達に向けてこう宣言したのであった。



「よく聞け。"切り札"である"必殺"のスキルは取り戻された。"女神の目醒め"までは、後2年。それまでに、"ガーディナル王国"にある"祠"の制圧に全勢力を注げっ!!!! 」



 彼の命令を受けた幹部達は、その声に「かしこまりましたっ!! 」と、呼応したのであった。



 強力な仲間の加入によって、"新たな突破口"が開けた事に喜びを感じながら……。



 ……皇が、女神にこだわる理由は、たった一つ。



 ……それは、奇しくも……。



*********



 "白百合十字団ヴァイス・リーリエ・クロイツァー"への配属が決まった翌日、本来ならば、入隊式に参加する筈だった俺達は、王都の外れにある"冒険者ギルド"へと足を進めていた。



「まさか、初っ端からこんな"特殊な部隊"に配属されるとは思わなかったぜ……」


 ツァーキは、街を歩きながらボソッとそんな文句を口にする。



 それに対して、パレットはニコニコと走り回りながら、嬉々としてこんな返答をした。


「でも、またみんなと一緒っ! 本当に、良かったよ〜」


 アスタロットは、「これからは、運命共同体……」と、顔色は変わらずとも機嫌良さげにしている。



 ……それは、俺も。



 まさか、冒険者になるとは思わなかったが。



 ……でも、胸の奥に眠れし"中二心"を刺激したのは事実。



 だって、これこそ、まさにファンタジーラノベの展開そのものだし。


 それに、ミッションを成し遂げれば、昇進も早まる。



 つまり、一石二鳥って訳だ。



 更には、森に蔓延る魔物との戦いは、自分の成長にも繋がる訳だし。



 今後、戦闘を行う上で必要な術を学べそうだ。



 だからこそ、「ああ、一緒に頑張ろうなっ! 」と、俺は皆に伝えた。



 ……しかし、そんな馴れ合いの雰囲気に対して、指揮官として引率している"アンネローゼ"は、こう注意をした。



「あまり軍のミッションを楽観的に捉えて貰いたくないわよ。これだから、"素人風情"は……」



 実に酷い言葉と共に、叱られた。



 その瞬間、パーティには微妙な空気が流れる。


「す、すいません……」



 パレットは怒られた事で涙目になってるし。



 ……なんか、乗っけから、雰囲気が悪いな……。



 まあ、でも、旧友との"早すぎる再会"に浮かれていたのは事実。



 それに、もう既に俺達は、"ガーディナル王国国王軍"の兵士。



 いつまでも、学生気分では居られない。



 だからこそ、ジーッと睨みつける彼女に向けて、こう謝罪をしたのであった。



「……すみません。少し、調子に乗っていました」



 そんな俺の陳謝に対して、アンネローゼはため息を吐いた。



「なんで、こんな"子守り"をボクが……」



 ほとほとウンザリしている。



 ……本当に、この部隊に配属された事が不満なのだろうな。



 俺は、彼女の気持ちを察して、更に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。



 ……そんなこんなしている内に、気がつけば、"ギルド"に辿り着く。



 面持ちとしては、おおよそ想像通り。



 木造の巨大な施設の入り口には、かつての"勇者"と思しき石像が聳え立っていて、それこそゲームの世界にトリップしてきた様な錯覚を覚えさせる。



 ……それに、周囲には魔法使いや、熟練の剣士とも取れる人々が闊歩していて、冒険者の活気を肌で感じる事が出来るのだ。



 やはり、幾ら気を引き締めているとは言え、少しワクワクする。



 それに、もしかしたら、他の連中が俺達の"秘めたる力"に気がついて、『新たな英雄の誕生だぁ〜!! 』とか、沸く可能性だってあるし。



 それは、今の身分的には困るが。



 本当なら、配属初日なんだから、緊張しなければいけない所なのに、あらぬ心配で胸を躍らせてしまっていた。



 だが、俺らを率いるアンネローゼは、冷静に、「では、さっさと"冒険者登録"をしてしまいましょう」と、淡々と告げた後で、ドアに手をかけた。



 ……一体、どんな場所なのだろうか。ギルドというものは。



 そんな興奮の中、すっかりと入り口の扉は開かれた。



 ――――しかし、そこで広がっていた光景は……。



「あ〜っはっは〜!! この前も、生意気な新人冒険者の連中を纏めてぶっ殺してやったぜっ!! 」

「笑えるな!! そこにいた女はもちろん、売っぱらったんだろ? 」

「当たり前じゃねえか! 可愛がってやった後で、な!! 」



 ……実に、不謹慎な会話が、所かしこから聞こえる。



 それに、室内から漂う、酒や血の匂い。



 酔っ払って殴り合いの喧嘩をするガラの悪そうな連中。


 それに対して、金を賭けて"見せ物"にする悪徳商人と思しき男。



 ……アレ? 思うてたのと違う……。



 俺は、そう呆然としながら入り口で立ち尽くす。



 それから、パレットやツァーキの方を見る。



 ……全く同じ顔をしていた。



 アスタロットはいつも通りだったけど。マジで肝が据わりすぎだろ。



 だが、そんな余りにも"品のない"空間でも、アンネローゼは全く気にしていない様子だった。



「……ホント、いつ来ても"便所の掃き溜め"みたいな場所ね……」



 そうウンザリとしながら、いかにもやる気がなさそうな職員が待つ受付へと迷いなく足を進めたのである。



 その背中に、俺達は、小さくなりながらついて行く。



 ……しかし、そんな時だった。



「おいおい〜。てめぇら、見ねえ顔だな。それに、そこの黒髪の女、可愛いなぁ〜。これから一緒に楽しい事しねえか? 」



 早速、隻眼の体格が良い如何にも"ゴロツキ"と言った風貌の男に絡まれた。



 どうやら、アンネローゼに目を付けたらしい。


「いや、全く興味がないわ……」



 彼に目もくれずに軽くあしらう。



 ……すると、ぞんざいな扱いを受けたゴロツキは、分かりやすく怒りを口にした。



「てめぇ、舐めてんのか……? 」



 その言葉に対して、彼女は更に彼の感情を逆撫でする様な発言を繰り返す。



「だから、邪魔なの。分からないの? 早く消えてくれるかしら。その汚い存在自体が不愉快極まりないわ」



 ……全否定を受けた事で、ヤツの沸点は頂点に達した様だった。



 故に、背中に背負う"ボロボロ"大剣を突き立てると、憤慨したのである。



「全員、纏めてぶっ殺してやるわ!! 」



 そんな危機的状況にも関わらず、職員達は知らんぷり。



 ……それどころか、周囲は途端に始まった"催し"の開催に、喝采していた。



「やっちまえ、"ボラット"っ!! 」

「こんなヒョロガキどもに、冒険者なんて務まんねえんだよっ!! 」



 そんなこんなで、気がつけば、俺達は初っ端から"喧嘩"をしなければならなくなったのであった。



 ……指揮官の"暴言"によって。

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