第二章 異世界編

0項目 蘇る記憶と最低な結末


 ――今、長きに渡り血で血を洗ってきた争いは、最終局面を迎えている。



 多くの街に"悲劇"を与えた戦争の末に辿り着いたのは、"神が眠りし祠"と伝わる古びた遺跡の前の平地。



 ……そこに、"不自然な間合い"を隔てて、数十万の兵士達が、物々しい雰囲気を醸し出して睨み合っている。



 猛々しい鷲の刺繍が施された真紅の旗を掲げる軍勢は、静寂の中で、今か今かと、"その時"を待つのだ。



 対する、"我が軍"も、平和の象徴である鳩が描かれたエンブレムを誇りに、辺り一帯を瑠璃色に染め上げた。



 この両者は、対立を重ねていく中で、世界に"混乱"を招いた。



 ……お互いの正義を信じた結果。



 しかし、そんな時間も、今、この戦闘に決着が付いた瞬間、全てが終わる。



 今後、その史実がどんな"悲劇"をもたらすか、分からぬ状態で。



 もし、我が軍が勝利したら、喜ぶべきなのか、後悔するべきなのか。



 俺、"小原周"は、ブルーの旗を掲げる"ガーディナル王国軍"の兵士の一人として、考えあぐねていた。



 ……何故ならば、こんな"結末"など求めていなかったから。



 ただ、俺が最も叶えたい"願い"の一端を手にする為、この場所に立つのは、必要不可欠だったのだ。



 理由は、単純すぎる。



「……ごめんな。俺は、今でも自分の選択を間違えていたのかもしれないと思っているんだ」



 "タコ"だらけのボロボロの手で"弓矢"を握りしめながら、背後に立つ少女にそう呟く。



 それに対して、俺がこの世で最も"愛する彼女"は、優しく背中に手を当てた。



「……もう、進むしかないじゃない。それに、私はいつだって、"あなた"を信じるしかないんだもの。だから、悔いることなんてないのよ。それに、何があっても必ず守るから」



 その言葉を聞くと、俺は「そうだな、弱気になって、すまん……」と、口元を緩めて小さく呟いた。



 同時に、再び、本来の目的を心に刻み込む。



 俺がどんな犠牲を払ってでも、果たしたい"夢"。



 ……それは、"忍冬朱夏"を……。



 すっかり目標を明白にした所で、我が軍の指揮官である"眼鏡の男"は、俺にこう指示を出した。



「……では、そろそろ始めようか」



 彼の言葉を合図に、俺は勇み足の中、両軍の間に隔てられた"間合い"の中を、何も語る事なく進んで行った。



 ……そして、既に臨戦体制に入っている敵軍に向かって、矢を引いた。



 これを放てば、"戦争"が始まる。



 引き金は、今、俺の手に……。



 ごめん、世界のみんな。



 必ず、責任を持って終わらせるから……。



 ――――だが、そう決意した瞬間だった。



「シャキンっ!!!! 」

 


 突如として現れた何者かが、目にも留まらぬ速さで、俺を斬ろうと剣を振り下ろした。



 直前で気がつくと、慌てて回避する。



 もし避けられていなかったから、今頃……。



 それから少し距離を取ると、俺は"開戦の合図"を妨げられた対象の方に目をやる。


 

 ……すると、そこには、見るからに硬い金属製の防具を身に纏った、一人の"女騎士"が漂う殺気の中、剣の先を突きつけていたのである。



 ……背後には、魔導士と思しき純白の正装を着る背の小さい女の子。



 そんな二人の姿を凝視するや否や、俺の頭は混乱に溺れる。



 何故ならば……。



 俺は、彼女達の事を、よく知っていた、筈だったから。



 何故か、忘れていた楽しくも儚い"青春の記憶"が全て蘇ったのである。



 ……何故、これまで思い出せなかったのか、分からない。



 でも、二人が、紛れもなく、"仲間"だったのは、紛れもない事実。



 しかし、そんな俺を前にしても、尚、妖しげなオーラを隠す事なく、"殺意"を剥き出しにしている。



 ……どちらとも、凍てつく様な冷めた無表情だった。



 同時に、いきなりの登場に対して、周囲からは、騒めきが響き渡る。


「何が起きたっ!! 」

「今、どうなっているんだよ!! 」

「てめえら、"ヴィクトリーナ国"……。戦争のルールも無視して、"赤髪の女騎士"と"白衣の黒魔道師"を焚きつけやがったな!! 」



 そんな多くの混乱を招いている状況にも関わらず、俺は今起きた"不可解な思い出"の前に、ただ、呆然とするしかなかった。



 ……戦争などという"概念"を忘れてしまう程に……。



 でも、そう悩んでいる時間も、もう残されていなかった。



 背後に立つ白装束の少女は、相変わらず無機質な表情で両手を俺に向けると、小さな声で詠唱を始める。



 同時に、彼女の周囲からは、禍々しい"闇のオーラ"が現れた。



 連動する様に、赤髪の女騎士は、鋭利な剣"を持つ力を強めて、攻撃の構えを取った。



 ……つまり、逃れようがない。



 俺は、彼女達と戦いたくない。



 ……だって、傷つけられる訳なんか、ないじゃないか。



 お前達は、俺にとって……。



 そんな"迷い"が、隙を与える。



 ――そのタイミングで、両者は、真っ直ぐに俺へと動き出したのである。



 ……避けられない。



 迫り来る"死"を目前に、立ち尽くす事しか出来ない俺。



 同時に、まるで"この世の終わり"を告げる様な轟音が鳴り響いた。



 ごめん。



 俺はここで……。




 ――――だが、禍々しい攻撃が全てをかき消そうとしたその瞬間、"真っ白なサークル状のベール"が俺を包み込んだ。



 ……そんな死の淵から、俺を護ってくれたのは……。



「……周、大丈夫?! 」



 右手にサファイアの宝珠が施された杖を持って、慌てて駆け寄って来たのは、愛する人だった。



 俺は、彼女の"守護魔法"によって、救われた事実を、高鳴る心臓の音から改めて実感する。



 すると、彼女も"全てを思い出した"のか、無機質な顔をする"かつての友"を、表情を歪ませながら睨み付けたのだ。



「なんで、なんでよ!! なんで、"アンタ達"が……」



 だが、そんな"心の叫び"が二人に届く事は、なかった。



 何も聞き入れる事なく、再び、臨戦体制に入ったのである。



「……お前達と、また……」



 そう告げると、俺は覚悟を決めた。



 同時に、全身に真っ青なオーラを放ちながら、右手に持つ弓矢を捨て、脇差しの短剣を抜く。



 楽しかった"あの時"の思い出を胸に……。



 ――――そして、もう一度、女騎士が一歩踏み出したのを合図に、二つの"色"は、交わるのであった。



 ……彼女から放たれた重い一打を受け止めると、大好きな二人との"戦闘"は、決して避けられないのだと、痛感した。



 そんな俺達をキッカケに、両軍は動き出した。



「いくぞーーーー!!!!!! 」




 こうして、多くの波乱を巻き起こす最中、世界の行く末を決める"最終決戦"は、始まってしまったのである。

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