お忍び
うっし、このダンジョンはクリアだな。
一応聞くけど、ダンジョンマスターって倒してないよね?
倒してしまったら問題だぞ。ギルドにこっぴどく叱られて反省文と謹慎コースだ。
やっぱり僕の知ってる冒険者じゃない!? モンスターを倒しちゃ駄目だなんて!?
だって悪さなんてしてないだろ?
え?
今までダンジョンのモンスターが悪さをしているなんて話は聞かなかったろ?
マスターがちゃんと統制してるからなんだよ。
だからマスターを倒すと、逆に統制が取れなくなって村や町で暴れる、なんて事態が起こりうる。
…………もう、何でもありだと思えてきたよ。
────────
休みの日というのに職場に来る、というのは……本当に気乗りしませんね。
まぁ、書類を作るだけですし、すぐに終わらせましょう。と、昨日の事を思い起こしながら資料作成に取り掛かる。
*
「……、めなのです。マデ姉……て…………のです。」
小さく聞こえるツヅラオの声で目が覚める。
「据え膳食わぬはサキュバスの恥ですわ!」
あ、……いやな予感が。
とりあえず寝起きで働かない頭が発した予感に従い、身体を大きく横へ。
その瞬間に、先程まで私が寝ていた場所に、パパラが突っ込んでくる。
しかしすでに体は横へ移動しているため、ブベッ! と変な声を上げて布団に顔面からダイビング。
「おはようございます。……パパラは何を?」
「おはようございますなのです。マデ姉の寝顔を見ていきなり、正気を失ったのです」
「理解しました。……さて、朝ご飯をお願い出来ますか?」
「私の事はスルーですかお姉さま!?」
すぐにスクっと顔を上げて抗議してきたので、仕方なく頭を撫でる。
恍惚とした表情で、まるで猫のようにじゃれついてきますね……行き過ぎて居なければ普通に可愛らしいのですが……。
「和食と洋食と用意できますのです。どちらにしますのです?」
すでにテーブルにつき、焼き魚と卵焼き、みそ汁に漬物と、これぞ和食の朝食、と思える食事をする姉御と。
ベーコンエッグにスコーンを食べながら紅茶を楽しむリリスの姿が。
そうですね……、
「洋食でお願いします」
「はいなのです! すぐに用意しますのです!」
食事を終えたらさっさとやる事だけやって戻って来よう。
そう考え、朝ご飯に舌鼓を打つのであった。
*
ダンジョン一つを紹介する資料なの作るのにそれほど時間はかからない。
書類を作成し終え、ダンジョン内に配置する宝箱の中身を確認へ。
装備類は問題ないにしても、何かそれなりの素材でも残っていれば、レア宝箱扱いで配置してやるのも悪くはない。
それを行うだけで利用率も上がる。
……おや?
最初に感じたのは違和感。
封印が……一段解かれている?
いえ、……違いますね。
誰かが倉庫に入った上で中から封印をかけていますね。
封印を解けば中の者が気付き、すぐにでも逃げる。
と言った事でしょうか。
ふむ。
でしたら……空間を切り離しますか。
入り口以外をこのギルドから切り離し、文字通り出入口のみでしか出入り出来ない様にする。
さて、後は出てくるまで待つだけですね。
しかし、……私の2重の封印を解き、存在を消していた倉庫を見つけるとは……一体どこの誰なのやら。
1時間程経過したころでしょうか?
倉庫の扉が僅かに開き、出てきたのは…………
闇……でした。
「魔……魔王……さま」
思わず声をかけると、一瞬ビクッと驚いたように闇が震え。
「マデラか。どうした?」
いつもと変わらぬ声が響く。
「いえ、こちらのセリフでございます。何をなされているので?」
「そろそろ退屈なのでな……少し人間共を観察でもしようかと来てみれば誰も居らぬのでな……少し周りを見ていれば何やら封印された場所を見つけて……」
イタズラのばれた子供みたいに徐々に声がしぼんでいく。
「それで中に何があるか気になった……と?」
「うむ、まぁ中はモンスターの素材やら装飾品で、一つ一つ見ていると中々に面白く、いい時間つぶしになったわ」
ご機嫌なら何よりです。
これが冒険者だったらと思えば肝が冷えましたよ。
「その中で一つ気に入ったものを見つけたのでな。持っていくぞ」
一体どれの事でしょうか?
見れば闇が絡まり、宙を漂う……姉御の作った鈴の付いた髪飾り。
あぁ、それですか。どこに置こうにも効果が強すぎて奥に置けなかった装飾品です。
魔王様が持っていた方がいいかもしれませんね。
「そちらでしたらどうぞ。効果が強すぎるため、どこにも置けずに困り果てていましたので」
「うむ、これでまた、新しい暇つぶしをするとしよう」
「あの、魔王様。気になった事がございまして、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「構わん。言ってみろ」
「何故、人間を滅ぼさず、勇者が来るのをお待ちになるのですか?」
「滅ぼして何になる?」
「はい?」
「人間を滅ぼしてどうなる。と聞いた。今の状況を考えろ。我を倒す為にモンスターも人間も、お互いを利用しているだろう。そこから、片方が消えてみろ。その先には無しかないぞ」
無、というよりは自分以外の存在が無い。という事でしょうか。
「退屈だ。と言ったはずだ。その退屈を紛らわすために人間は滅ぼしていない。お前も気が付いているのではないか? 人間という存在は、時に想像もしないような行動をする面白い存在だと」
それは確かに何度となく感じはしました。
ただ、今の口振りからすると、こうして人間の居るところに行って観察するのは初めてでは無いという事ですよね……?
「一応確認させてください。……勇者のパーティにちょっかいを出したりしていませんよね?」
もしかしたら、前日勇者が言っていたのは本当に魔王様では無かったのか、
と薄くはあれど否定できない可能性を口にする。
吸血鬼が認めたとはいえ、偶然同じタイミングで人間を襲った可能性もあるわけで……。
それに対しての魔王様の回答は、
「するわけがない」
だった。
良かった、吸血鬼だけのイタズラでしたね。
「では我は城に戻る。勇者のパーティからは目を離すな。必ず我の元へ連れてこい」
「承知しております」
深々と頭を下げると、闇は、そのまま溶けるように霧散する。
相変わらず、まるで読めない方ですね。
再度倉庫の存在を消し、空間を戻して封印を施す。
……3回にしておきましょう。
と1回分多く封印をし、ギルドの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます