職業病

 思うんだけどさ。

 なんだ?

 どこの町も治安いいよね。盗賊とか、見た事無いし。

 盗賊なる位なら冒険者になるだろ。わざわざモンスターと戦ってるのにさらに人間まで敵に回す理由が無い。

 それに、盗みなどを働かなければならない程、生活が苦しくならない様に国や街が様々な政策を行ってくれていますし。

 ? 私腹を肥やすような統治者は居ないって事?

 んな事したら冒険者来なくなるからな。それか逆に大勢来てその椅子から降ろされるか。だから本当に国や街を守りたいって思ってる人らが統治するし、冒険者もそれに応えるのさ。クエストなんかでな。

 段々と考え変わってきちゃうよ。そんな話聞くと。


────────


「おかえリー。結構時間掛かったネー」


 魔王様の倉庫漁りで一時間程待ってましたからね。思ったより遅くなってしまいました。

 出かけたのが朝早かったのでまだ昼には少し早い時間帯。


「今日は皆さん何をなさいますの?」

「特に予定はあらへんなぁ」

「酔い覚ましニ空飛んでくルー」

「お姉さまから決して離れず一日べったりする予定ですわ」

「皆さんに付いていくのです」


 今日の予定をリリスが聞けば、思い思いに考えていない。か、好きな事をする。と言った返答。


「ドラさんは何をなさるご予定で?」

「ゆっくり温泉を楽しもうかと思っていましたが?」


 昨日の温泉は酔い潰れてのぼせた方々のおかげで少ししか堪能出来ませんでしたので。

 などと考えていた時でした。

 唐突に、バサバサと羽音が響く。皆が無意識にハーピィを見ると、


「いヤ、私あんなニ不細工な音出さないヨ?」


 と本人にしか分からないような表現で否定された。

 では一体誰が……? と、窓の外を見れば。

 こちらは私達にも分かる不細工な見た目の鳥が、口に何か手紙を咥えて。

 しかし体から煙を上げながら、何とか今の高度を保っている。というような光景があった。


*


 たくさんのモンスターが集まり、皆が皆思い思いの事を呟く、あるいは漏らす、……あるいはうめく。


「は~い、痛いのは最初だけだからね~。ちょっと燃えるけど我慢してね~」


 一見若い、しかしよく見れば顔や手にはしわがあり、老いている、というよりはしなびていると表現した方がしっくりくるような白衣に身を包んだその者は。

 その容姿で一番に目につくであろう燃え続ける髪の毛を引き抜きながら言う。

 燃え続ける、しかしすぐに後から後から生えてくる故に、一向に炎が燃やし尽くすことが無い髪を引き抜き、すぐに目の前のモンスターの腕に押し当てる。


「――っ!?」


 冒険者から毒矢を受け、化膿している右腕に押し付けられた髪は、ゴウッと白衣の者の手ごと、盛大な火柱を作る。

 あまりに唐突に起こったその現象に、思わず全力で後退し、警戒するオークは……しかし。

 化膿した部分どころか、右腕にあった全ての傷が跡形も無く治っている事に驚く。


「あぁごめんねー。やっぱり驚くよね~」


 にへらぁ、と笑顔をオークに向け、お大事にーと手を振る彼は、『地水空』の空担当、『神獣〈不死鳥〉』である。


「ちょっとー空の。いつもみたいにゆったりやってんじゃないわよー?」

「あぁ、悪いね水の。応援を頼んでみたからもう少しの辛抱だねぇ」


 水の、と呼ばれた、赤白黒の模様の入った法被はっぴを着た少女の見た目の彼女は、水担当の『神獣〈錦鯉〉』。一度龍へと成ったが自分で錦鯉に戻った変わり者である。


「いや、お前ら。手当全部俺に任してんじゃねぇよ。働けごら」


 黙々と寝かされているモンスター達に処置を施していたがもう我慢の限界。

 と最後の地担当の『神獣〈麒麟きりん〉』が二人にかみつく。

 立派な角に端整な顔立ちで、如何にも何でもこなすと纏っている空気で語っている。


「僕は外科だからねー。よくわかんないんだよー」

「薬湯なら言われた分は作ったわよ。それとも何? 弱音?」

「使えねぇ……」


 そんなやり取りをしながらも各々が未だに捌ききれない患者の列にうんざりし始めたころ。

 ようやく、不死鳥の応援に応じてくれた彼女らが到着した。


「何やら書面で読めば大変なようですが……いかがしましたか?」


 燃える様な真っ赤な髪の女性を先頭に、九尾1体とサキュバスが2体。


「おう魔王の言いなり。てめぇの人事のせいでご覧の有様だよ!」


 ビシッ、と麒麟が紅蓮髪の女性を指差しさらに叫ぶ。


「ここに寝てるモンスター全員、熱中症だ馬鹿野郎!」


*


 熱中症、熱い場所等で体温が上昇し様々な症状を併発する……人間ではこう説明される。

 ではモンスターでは? 基本的な説明は変わらない。が、併発した症状により魔力が制御出来なくなり最終的には暴走してしまう事もある為、人間同様甘く見れない症状である。


「話聞けばほぼ全員が最近になって火山のダンジョンに配置されたっつってんだよ。それまで熱い場所に居なかったのに急にんな場所に移動させられるなんざそら熱中症にもなるだろって話だ!」

「というわけで、手伝ってね。ドラゴンさん達」


 と、人手が足りないと書かれた手紙の主の所へ迎えば、そうまくし立てられ手伝う事に。

 そもそも相手は神獣どもですし、私たちと文字通り格が違う存在の為、基本的に歯向かえないのですが。


 神獣。

 文字通り神の使いの獣。

 今の魔王様の作ったこの世界を、バランスの取れた世界と評し、そのバランスを保つ為に、と神から独立してモンスターに手を貸す存在。

 手を貸す、と言っても共に戦うといった事はせず、もっぱら医療機関であるこの地水空で病気やケガなどを治してくれている。


 いくらモンスターが人間に比べタフで自然治癒力が高いと言っても、毒やマヒといった状態異常や、容赦のない冒険者の一撃で四肢切断から全身やけど等、自力ではどうあがいても回復できない状態に陥ることもあります。

 そんなモンスター達はここに送られ、彼らの手腕によりごく短期間でダンジョンへ戻る事が出来るのだ。

 若干癖のある3人だが、協力的な事には変わりないし、何より腕は確かである。

 そんな彼らの手助けの為、私たちは言われるままに配置へ。

 まず姉御は錦鯉の元へ。薬湯を共に作るとの事。

 続いてリリスとパパラ。これは麒麟の元で熱中症のモンスター達への対応。

 体内で暴走しかける魔力の流れを正すとかなんとか。


 そして私は不死鳥の元へ。

 回復魔法を用いて不死鳥への助力と、もう一つ。不死鳥を殺すという役割も。

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