女子?会
女子会とは何でしょう。
まぁ名前の通り女子で楽しむ会でしょう。
この「会」というのは飲み会でもあるしお茶会でもあるでしょう。
問題はそこではありません。
この場合私の中に出てきている問題は……。
「あなた……男でしょう?」
若干酔いが醒めてしまったのか、予想より低い声で突っ込んでしまいました。
いえ、ほとんど酔って居なかったんですけどね?
「はぁい☆ でも今は~女の子ですよ~?」
普段着ている、夜から引っ張り出したような黒ばかりのタキシードではなく。
ところどころにフリルの付いた、いわゆるゴシックロリータ調のスーツの様な服装の……彼?
下に履いているのはスカートですし、胸もほんの僅かながら膨らんでいるのが見て取れまして。
しばし沈黙し……。
――あぁ……なるほど。
「性別を偽った……と」
「ピンポ~ン☆大・正・解・で~す☆」
笑顔で私にダブルピースを向けて来るこの吸血鬼は全く……。
本当にこの人には世の理が通じないようで……。
「女子会なるものに誘われたのでしたら~、女子として行くべきという事で~、まぁ普段の僕でも十分女の子の見た目なんですけど~、やっぱり雰囲気重視という事で~、女の子になってみました~☆」
割と気軽にその魔法は使えるようですね……全く。
その証拠に私に血をねだって来ませんし。
「さて~、あ、すいませ~ん。赤ワインいただけます~? あとおつまみにチーズを数種お願いしま~す」
私たちの席に座りながら流れるように注文。
いきなりワイン……いえ、他人の注文にケチをつけるつもりはありませんけれど。
「最初はエールじゃないノ? とりあえズ感覚でサ」
私の思考を読んだわけでは無いだろうが、ハーピィがありがたい事に私の聞きたい事を代わりに聞いてくれました。
「あまりエールは好きじゃないんですよ~。というかもっぱら赤ワイン専門です~」
「というかあなた人間の言葉なんて今まで話した事ありました? わたくし初めて聞くような……」
好きでは無い。と言っていますが、ワインも結構癖が強いと思うのですが。
少なくとも私はワインを好みませんし。
そしてリリスの疑問も私が思っていた事です。
こいつ――失礼。吸血鬼が人間の言葉を話せるなど私は知りませんでした。
「僕としてはお二人みたいに話せるほうが不思議ですよ~? 僕は”嘘”をついてるだけですし~?」
「わたくしはリリスに転醒した時に理解出来ましたわ。書けはしませんがお話しする分には不自由しません」
「私ハ頻繁にこの町に素材卸してるからネー。その度に酒場でお酒飲んでたラ覚えたヨ?」
転醒で理解した、何度も聞いてたら覚えた……話せないが自分は話せると自分に”嘘”をついて喋っている。
なるほど? ……みなさんいいなぁ。
話せるようになった経緯がプライベートで……。
冷静に考えてですよ? なんで同じ言葉でイントネーションで意味が違ってきやがります?
文字を覚えるために書き写しして、発声練習まで行って。
ギルドの人達から優しい言葉とアドバイスを貰って、私がどれだけ涙を流したか知ってますかね貴方がたは……。
そんな、思わず心がゲリラ豪雨に襲われた所で。
「お待たせしました」
と吸血鬼の頼んだチーズと、ボトルワインが運ばれてくる。
「お注ぎしますわ」
とリリスがグラスに注いで。
「乾杯のし直シかなァ?」
ハーピィの音頭で再びの乾杯。
そして、吸血鬼のこだわりでしょうか。
一度グラスに注がれたワインを天井の光りに透かし、無邪気な子供の様な笑みを見せ、ゆっくりと一口含。
コロコロと舌で転がし、ゆっくり飲み込んで。
――ふぅ。
と目を細め、今が幸せの瞬間である、と主張して。
「美・味・し・い・で~す☆ 本当に最高ですね香りも味わいも後味も何もかもが完成されている完ッ璧な飲み物ですね赤ワインは~」
先ほどの上品な空気はどこへやら。そう早口でまくし立てた。
「今さっきの一連の動作が不覚にも色っぽく見えてしまったのが解せませんわ」
「ずいぶん美味しそウに飲むネー? 私ワインダメー」
「銘柄とおつまみで酸味や渋みは何とかなりますよ~? 僕は全部の銘柄好きですけど~」
「血しか飲んでるイメージがありませんでしたが、お酒も
「赤ワインは神の血である。なんて伝わっている地域もあるらしいですよ~? つまり僕は神様の血を飲んでいるわけです~。これ以上強くなったらどうしよ~」
その時は魔王様に挑もうとする前に丸焼きにでもいたしましょうか。
早く来ませんかね……そんな場面。
「そういえば僕が来る前はどんな話してたんです~?」
「普段通りノ愚痴だヨー?」
「主に魔王様のですけど……」
「お酒でも入ってないとあの方への愚痴なんて言えませんわ。この際、と笑いながらこぼしてましたわ」
「へ~。是非とも聞きたかったです~。……では僕もお酒が入って無いと出来ない話でもしてみます~」
一瞬、何とも言えないゾクリとした感覚があったのは気のせいでしょうか。
「皆さん僕の得意な魔法は知ってますよね~?」
いきなりモンスターの言葉に戻り話し始める吸血鬼。
「先ほどから
「は~い☆ 大正解で~す。ではでは~。一番負担が掛からない”嘘”って何だと思います~?」
「”嘘”っテ言っても魔法だかラ、何かに
「それも正解で~す。現にさっきは自分に性別と話す言語と、2つの”嘘”をついてました~。」
負担が軽いから”嘘”が重ねられたという事ですか……。
というかこの吸血鬼は、自分からベラベラと自分の能力をひけらかしていますが、どんな目的があるというのでしょうか?
では、と区切った吸血鬼は、いよいよ核心へと進む。
「僕はいったい幾つまで重ねる事が出来るでしょ~う」
チビチビとチーズを食べ、ワインを楽しみながら話は続く。
「想像も出来ませんね、どうせ素直には答えないでしょうが」
自分の手の内、しかも彼にしてみれば魔法の核に等しい情報ですので、素直に教えはしないでしょう。
「まぁ~そうなんですけどね~。ではではここからが本題ですよ~」
コホンとワザとらしく咳払いした吸血鬼は。
「”嘘”を重ねられる事により、どんな事が可能となるでしょ~」
「それこそ何でも出来る。ではないのかしら? そうね……冒険者に扮して他のダンジョンに遊びに行く……とか?」
「そレ、やって意味無いでしョ。う~ン……魔王様に扮して無茶な命令をさせル? ってまさカ!?」
「どっちも外れで~す☆ 魔王様になれるのならもっとメチャクチャにしてま~す☆ そもそも”嘘”で姿を変えることが出来るのは自分以下の強さを持った存在に限りま~す」
「つまり自分より弱い存在になって、何かしている?」
「はぁい☆」
満面の笑みでこちらにその通り、と示す彼に。
今度こそ背筋が凍りつくのを感じた。
彼の言わんとする事が理解出来たのだ。
――つまり、
「例えば僕が”嘘”で自分より弱いモンスターに姿を変えたとしますよね~? でも元は僕ですのでそこら辺のモンスターよりは知能があります~」
外れていて欲しい予感ほどよく当たるという。
「そんな知能のあるモンスターを、わざわざ
邪悪な笑みと、口元から覗く牙が、私に向かってくる錯覚を覚えたのは気のせいだろうか。
「別のモンスターになり、Sランクじゃないダンジョンのマスターになれば~、冒険者が全く来ないSランクと違い、結構な数の冒険者が見込めます~」
あぁ……やっぱり。
頭痛が襲ってきたような感覚に陥りますが、錯覚ですよね?
現実ではありませんよね?
「そこで撃退し続ければ僕だって強くなれるはずですよね~? そして~、さらに申し訳ありませんが~、僕、存在自体に”嘘”をつけば~」
「こんな事だって出来ちゃいま~す」
急に言葉の途中で、声が背後から聞こえた。
慌てて振り向くと、吸血鬼そっくり……というよりはもう。
「
一同絶句である。
一体彼は、今までにいくつのダンジョンマスターになっていたのか……。
本人以外に知る術は無い。
だが、待て。
ランクの割に異様にクリア報告の少ないダンジョンを洗い出せば……。
「あ、無駄だと思いますよ~? ちゃんと適度に負けてあげてますから~」
思考を先回りされ、トドメの一言。
「貴方は……」
怒りを通り越し、むしろ感嘆に値するとさえ思う。
「ま、ぜ~んぶ嘘☆ ですけどね~☆」
気が付けばボトルワインを逆さまにひっくり返し、残ったほんの二口分をグラスに注ぎながら言うが……。
そこにいる彼を除いた三人は。
(信用出来るわけありませんわね)
(信用出来なイよネー)
(嘘であってください下手すりゃクレーム連発案件です誰も気づかないでください気付かれないでください詐欺行為もいいとこですごめんなさいごめんなさいごめんなさい)
各自そんな事を思っていた。
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