第34話 過去 ルミサ・ヘッレ
敵のエースパイロットが何者なのかなんて、私には分からなかった。
ただ、分かったのは化け物で別次元なんだってことだけだった。
同じような制限の中で、同じような機体であるはずなのに勝負にさえならなかった。
被弾のあと、完全に後ろにつかれていた。
いつ『環境に優しい弾丸』が飛んできてもおかしくないと私は恐怖は首をすくめながら逃げていた。
数秒生き延びた私は、雑魚すぎて遊ばれているのだろうかと思った。
「助かった?」
真後ろに敵がいなくなり、援軍が来てくれたのだと悟った。
「教官?」
横を見れば、激しいドッグファイトが行われていた。
凄すぎて映画でさえ見たことのない戦いだった。そもそも、こんな激しく、そして必死なドッグファイトは、映画でもあまり見たことのないシーンだった。
この人間離れな動きで白イルカを操れる人は、教官しか思いつかなかった。
二人の化け物の戦いは互角だった。このままどちらかの機体が壊れるか燃料が尽きるまで戦いは続くような気がした。
(互角なら、ちょっとだけ手助けしてあげれば……)
万が一にも教官には死んで欲しくなかった。
そんな思いから、つい魔が差した。
「牽制で攻撃だけでも……一発でもかすってくれれば……」
そう思って操縦桿を傾けて、わざわざ二人に近づいた。近づいてしまった。
教官からすれば、私を助けに来たのに何でさっさと逃げないんだという気持ちだっただろう。
次の瞬間、敵のエースパイロットは私の白イルカとすれ違った。
「あ、やばい」
敵の弾丸がコックピットを貫通した。
弾丸は私の腹か脚を突き抜けた気がしたけれど、きっとひどすぎて脳が受け入れを拒否している。
口の中にも血が混ざっている味だけがしたのが、最後の記憶だった。
(ここはどこだろう……)
どうやらベッドに寝かされているらしい。
医務室っぽい部屋だったけれど、視界がぼやけてよくは見えなかった。ただ、出撃した基地ではなさそうだった。ずいぶんと最新鋭の設備が並んでいる印象だった。
わずかな意識の中で、きっとこれは駄目だなと思っていた。
「残念だけれど、もう駄目だよ」
お医者さんだろうか、私の体を見て同じ感想を持ったようだった。
頭を動かすこともできなかったし、見る勇気もなかったけれど、きっと脚とかは酷いことになっているのは分かる。
(あれ? 教官が二人?)
目もおかしいから二重に見えているのだと思ったけれど、そうでもなさそうだった。
似たような背格好の人が隣に並んでいる。
(教官のお兄さん? お姉さん?)
わずかに教官より背が高くすらりとしているけれど、中性的な美しい顔はよく似ていた。
白衣を来てお医者さんのように私を観察していたけれど、振り返って教官に向かって大きな声をあげていた。
「レイ! 何をする気なんだ」
「記憶だけでも取り出したい」
「この娘は、僕たちとは違う普通の人間だ。記憶を取り出すのは無理だよ」
「理論上は……できる」
レイって、教官の名前だったかなとなんとか思いだしていた。こんなことを結びつけるのにも精一杯だと薄れゆく意識の中で思う。
教官は、なんかすごい機械を台車にのせて運んできていた。
二人でずっと言い争いながら、教官は私の頭や首に何かを刺していた。
痛みはなかった。もう痛みを感じないのか、それとも痛くない仕組みがあるのかは分からない。
私が最後に見たのが、私の顔を覗き込む教官のアップだった。
「ルミサ!」
教官は私の名前を呼んだ。
最後の景色としては悪くない。いや、私なんかの人生を考えれば最高かもしれない。
ただ、悲しそうな目をしているのだけが残念だった。
(あとはロヴィーサちゃんもいれば……)
教官には少し失礼なことを思いながら、私の意識は闇に落ちていった。
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