第33話 現在 スイッチ

「おおっ。よくやった。なるほどな。そんなところにスイッチが」

「これで……小さな国の政府を脅すのも簡単になるというものだ」

 うっとりとした表情で、マイロ大佐は上から機動兵器を眺めて、最後はコックピットを前のめりに覗き込んでいた。

「私は、幾多の小国を陰で操る王になるのだ」

(壮大なようで、意外に現実的ね……)

 もっと世界征服、世界への復讐とかを考えているのかと思ったけれど、やりたいことはいくつの小国を股にかけるマフィアとあまり変わらないようだった。

 サウザードでは危険視されて、あまり協力はしてもらえないから自分たちで独自に動いているのだろうという気がした。

(まあ、でも、確かにこれが使えるのであれば……)

 ヨーコも横目で機動兵器を見ながら思っていた。マフィアや海賊とは違う、小規模でも、政府や軍をも脅せる勢力になるというのはそのとおりな気がしていた。

「よし。とりあえず試運転といこうか」

 新しいおもちゃをもらった子どものような楽しげな表情で、マイロ大佐は機動兵器のコックピットに自ら乗り込んで操縦桿を握った。

「えっ、でも、それは普通の人間には危険です!」

 ヨーコは自分でも何でそんな言葉が出たのかは不思議だったが、新しい目の前にした大きな子どもにはそんな言葉は耳に入らなかった。

「うわあ」

 機動兵器は動き出した。

 一メートル動いただけなのに、大きな振動があった。

 それは後ろ部分が引っかかっていたからで、普通に移動する分には静かなものなのだが、ヨーコたちにはそれがわからずに船ごと傾いてしまうんじゃないかと不安で逃げ惑っていた。

「よし。シルベストク。もうそのお嬢さんたちはいいぞ。丁重にお帰り願え」

 マイロ大佐は、機動兵器からそう呼びかける。コックピットのハッチの閉じ方がわからないのか、閉じてしまうのが怖いのか、下に向かって上機嫌でそう叫んでいた。

「あ、うん。まあ……いいか」

 ヨーコは逃げ惑った際に汚れたスカートを払いつつ立ち上がった。

 ヨーコとティルデの目的は果たされたのだ。これも予想の範囲内ではある。

 封印された邪神を解き放ってしまったような気分にはなっていたけれど、これでロヴィーサを連れて帰れると思っていた。

「じゃあ、シルベストク。私たちは帰らせてもらうわ」

 ティルデももう機動兵器には興味なさそうに背を向けて、シルベストクに手を伸ばした。

「ロヴィーサを離して! それとも、私たち3人を港まで送ってくれるの?」

 さっきまですごい憎しみの目でシルベストクのことを見ていたティルデだったが、今はわりと穏やかな声だった。もう交渉は終わったということもあるけれど、どこかやはりシルベストクのことを戦場を一緒に駆け巡った仲間だという意識があるんだなとヨーコは感じていた。感じていたのに。

「ふっ、あんなロボットなんかどうでもいいのです」

 シルベストクはその大きな体を軽く揺らしたあと拳銃を構えた。

「何をする!」

「やめて!」

 シルベストクは、ロヴィーサを突き放して倒れる彼女に向けて銃口を向けた。

 ティルデとヨーコが叫んだ中で、シルベストクは一瞬、ヨーコの方をじっと見た。見た気がした。その瞬間に引き金は引かれた。

「えっ」

「いやああ」

 背中から真っ赤な血を流して倒れているロヴィーサの姿を見て、ヨーコの叫ぶ声が船内に響いた。

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