第21話 現在 一緒に来ませんか?(後編)

「……考えさせてください」

 ヨーコは自分でも意外なほど冷静だった。

 もし、こんな日が来るとしたら、今の生活なんて全て捨てて即答で『どこへでもついていきます』と言うと妄想していた。

 でも、現実になってみると意外に思い切りがないことに自分でも驚いていた。

「そう……。ごめんなさい。いきなり変なことを言って。しばらくの間、観光だとでも思ってきてもらえばと思ったのだけれど……」

「いえ。すいません。でも、何で私なんて連れていこうと思ったんですか?」

「……その。半分くらいは私たちのせいかもしれないのだけれど……。ひょっとしたら、ここにいると危険なことがあるかもしれないの」

「え?」

 もっとロマンス的な何かを妄想していただけに、ヨーコは驚いていた。

「ロヴィーサさんのファンに妬まれて襲われるとかそうことでしょうか?」

 ヨーコとしては、大真面目にそう聞いたのだけれど、ロヴィーサは笑い出してしまいそうなのをなんとかこらえて答えた。

「い、いえ。そういうのではなく……。私たちの情報だと悪い組織に狙われてしまう可能性がある……そういうことなの」

 なんとか途中から真面目な表情を取り戻し、ロヴィーサは申し訳なさそうに訴えた。

「えっ、ロヴィーサさんではなくて、私がですか? いえいえ、私なんて普通の学生ですよ」

 首をかしげたあとで、笑いながら大きく手を振って否定した。

「ロヴィーサさんの盾となれとかいうのでしたら、喜んでお受けいたしますけれど……」

 ロヴィーサの影武者のような仕事を期待されているのかもしれないと想像して拳に力を込めて意気込んだ。

「ふふ、私が狙われているのだったら、来てくれるのかしら?」

 ロヴィーサは、ヨーコのその思考がよく分からなかったが、意気込みは伝わったので笑顔になっていた。

「えっ、もちろん、ロヴィーサさんの危機だというのでしたら、いつでも駆けつけます」

 気合いの入ったヨーコの言葉に、ロヴィーサは頬に手を当ててしばらく考え込んでいた。

 自分の危機だとはっきりとそこまで言える事態ではないと思うのだが、ロヴィーサとしても単にそう伝えたくはないし、まだ言い切れるものでもない。

「もし、私がサマリナについていくとしたら、ホテルとかどうすればいいんでしょうか?」」

 考え込んでいるロヴィーサを見て、やはりこれはロヴィーサ自身が危ないのだと勝手に想像したヨーコは、前のめりになった。

「私の家は、部屋が余っているから、そこに住んでいただいて構わないですよ。もちろん、お嫌でなければですけれど」

「え」

 なぜそんなに私に肩入れしてくれるのかと、ヨーコは不思議に思う。

 ロヴィーサは、いたずらっぽい笑顔を浮かべながらそう言った。

「ロ、ロヴィーサさんのおうちですか」

 ヨーコは、色々妄想してしまい鼻血が出ていないか自分で心配して鼻を押さえていた。

 これは誘惑だと分かっていた。

「い、いえ。推しには直接関わっていけないもの。あくまでも少し離れたところから観察するのがファンというもの……」

「……? もう直接関わっているじゃない」

「おおっ、い、いえ、あくまで取材させていただいたくらいですので……」

「ヨーコさんはまだ気がついていないかもしれないけれど……」

 ロヴィーサは、手を伸ばしてヨーコの頬にそっと触れながら微笑んだ。

「あなたは、もう、私の人生に強く影響しているのよ」

 ヨーコは真っ赤になり倒れそうだった。

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