3

「何でと申されましても、あのですね。えーっと……何となく」

 まさか、あなたの態度からそう感じましたとは言えずに菊子はお茶を濁した。

 日向は、いらいらした表情を浮かべて眉間に人差し指と中指を当てた。


 やばい、怒らせたかしら。


 菊子は身構えた。

「あんたの言う通り、俺はあんたの事、迷惑に思ってるよ」

 そう静かに言う日向。

 てっきり怒鳴られると思った菊子は面喰ってしまう。

 しかし、日向は菊子の顔を、いらついた顔のままに見ている。

 不機嫌なのは間違えなかった。

 だが、だからと言ってご機嫌取りに走る菊子ではない。

「それは何故でしょう?」

 平静を装い訊ねる菊子。

 そんな菊子に、日向は冷たい口調でこう言った。

「野宮菊子。あんたの話は、あにきからよく聞いてたよ。愉快な女友達がいるってね」

 愉快な女友達。

 雨にそんな風に言われていたのかと菊子は心の中で苦笑いする。

「愉快な女友達がいけませんか?」

「友達、ねぇ……。あんた、あにきに対して友情なんか抱いてるのか」

「それは、どういう意味でしょう?」

 菊子の問いに、日向は少し間を開けてから答える。

「何か、目的があってあにきに近付いたんじゃないの? て意味だよ」

「あら、それは、どんな目的かしら?」

 二人の間に冷えた空気が漂う。

「あんたの前の家政婦……」

 いきなり話が飛んだので、菊子は、「は?」という顔になったが、黙って日向の話を聞く事にする。

「若かったけど仕事の良く出来る人で、性格も穏やかで、あにきに凄く親切で、俺もそれなりに信頼していたんだけど、人は見かけによらないな。彼女には、仕事以外に別に目的があったんだ。何だと思う?」

 そう訊かれて、菊子はまさかと思う。 

「まさか、目黒さんの財産目当て? その為に家政婦としてこの家に入り込んで来た、とか?」

 若干、そんな事ある訳ないと思いながらもそう口にした菊子。

 しかし。

「その通りだよ。彼女は、あにきをモノにして、あにきと、あにきの財産を手に入れようとしていたんだ。けど、あにきは彼女の思い通りにはならなかった。だから、彼女は最後の手段に出たんだ」

 菊子の予想は当たっていた。

「最後の手段って、まさか」

 日向が頷く。

 菊子の口があんぐりと開く。

「彼女は、あんたと同じく、住み込みの家政婦だった。しばらくの間、彼女は真面目に働いてくれていたよ。それが、ある日、突然……」

 日向は苦虫を嚙み潰した様な顔をする。

 菊子は息を呑んで日向の話の続きを待った。

 日向は汚い物でも見る様な目つきで菊子を見ると話し出す。

「夜、俺が部屋で寝ていたら、あにきの部屋の方から言い争う様な声が聞こえて来て。慌てて起きて、あにきの部屋まで行って、そして部屋の扉を開けたら、彼女が下着姿で、あにきのベッドで、抵抗するあにきを組み伏せていたんだ」

 言い終わった日向は疲れた様に肩を落とした。

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