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家具は備え付けのクローゼット。
そして寝心地の良さそうなシングルベッドに壁際に置かれた黒くつややかな木製の机。
机とお揃いの椅子にはクッション部分に深紅の手ざわりが良さそうな布が貼られている。
のんびりできそうなシングルソファーと小さなテーブル。
テレビに、さらに嬉しい事に猫足の可愛らしいドレッサーまであった。
正に、至れり尽くせりである。
「こんな部屋、私が使っちゃって良いんでしょうか? そもそも、ここ、ゲストルームなんですよね」
興奮している菊子とは対照的に、日向は冷めた目をしている。
「ああ。ここは元々、住み込みの家政婦の部屋として使っていたから。ゲストルームはあと一部屋あるし、家には泊まり込む客も滅多にいないし問題無い」
「そうなんですか」
菊子に言われても、日向は無言で頷くだけだった。
日向の冷めた様子を見ていたら、菊子の興奮も治まって来た。
「隣のゲストルームは大体同じ感じだから見なくても良いよな」
日向は限りなく棒読みに近い感じでそう言う。
「……はい」
菊子が頷くと、日向は「後、残りはシャワールームだけだ。行くよ」そう言って一人で先に部屋を出てしまった。
「はい……」
眉間に皺が寄るのを我慢して菊子は日向の後に続く。
シャワールームは、廊下の一番奥だった。
一通り見終わった菊子は、「いやぁ、本当に立派なお宅ですね」と、横に並ぶ日向に向かって言ってみた。
日向からは、「そうだね、あにきが建てた家だから」と、またしても棒読みの台詞が読まれるばかり。
それでも菊子は諦めず、日向に話しかける。
「これだけのお家、お掃除するのは大変そうですね」
「そうだね。あ、念のため言っておくけど俺の部屋の掃除はいいから。家政婦さん」
「……はい」
家政婦さん、と来たもんだ。
まあ、実際そうなんだけれども。
廊下を進みながら、前を行く日向の背中を眺め、菊子は、もやもやとしていた。
菊子は思う。
木沙日向。
彼は一体全体どういう人間なんだろう、と。
日向の菊子に対する態度はどうもおかしい。
それは、彼の元々の性格故なのか、それとも、菊子が気に喰わないのか。
どうも、後者らしい気がして菊子はならない。
「あの、木沙さん」
菊子が先に前を歩き始めた日向の背中に向かって言うと、日向は振り返り、立ち止まって「苗字で呼ぶな。俺の事は下の名前で呼んでくれ」と言う。
下の名前で呼んでいいんですか? と思った菊子だったが、本人が言うものだからそれに従わざるを得ない。
「じゃあ、日向さん。あの、違ったら申し訳ありませんが私の事、ご迷惑でしたでしょうか?」
ずばり訊いてみた菊子。
「何でそう思うんだ?」
日向は眉をひそめている。
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