お気に召しませんか?

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「あの、それで、私はこれから何を?」

 菊子が首を傾げて雨に訊ねる。

 このまま応接間のソファーでのんびりしているのが家政婦の仕事ではないはずだ。

 家政婦として雇われたからには何か家事をしなければならない。

 掃除か、洗濯か、料理の支度か。

 雇い主である雨が今、菊子に求めている事は何なのか。

 雨は、視線を下に向けて顎に手を当て、考える人のポーズを取る。

「そうだな。とりあえず、日向に家の中を案内させよう。話しはそれからだ。日向、頼む」

 言われて日向が「分かった」と、どこか面倒くさげに答える。

「それから、日向、菊子の部屋にも案内してやってくれ」

「了解」

「ありがとう」

 雨がそう言って笑顔を日向に向けた。

 菊子は日向の顔をそっと見る。

 日向は、むすっとした顔をしていたが雨に話しかけられた時だけはその表情が少し崩れる様だった。

 しかし、雨が日向から目を逸らすと途端にその顔は不機嫌の仮面をかぶる。

 彼の不機嫌の理由は一体何なのか、菊子の気になる所だった。

「菊子、日向に案内してもらった後、またこの応接間に戻って来てくれ」

「分かりました」

 頷きながら言う菊子。

「よし。じゃあ、二人とも、行っておいで」

 雨の声に、菊子と日向はソファーから立ち上がり、応接間を出た。




 菊子は日向の後に続き目黒邸を見て回った。

 まずは一階。

 先程いた応接間と独立したキッチンに広々としたリビングダイニング。

 白いタイルで統一されたバスルームなどの水回りに書斎。

 クローゼットルーム。

 そして、中へは入らなかったが廊下の一番奥に雨の部屋。

 長い廊下にそれぞれの部屋の扉が付いている。




 次は二階。

 二階へと続く階段は、雨の部屋の対面にあって、階段の途中にある小さな踊り場には壁に埋め込まれる様にして本棚がしつらえてあった。

 二階も一階と同じく、広く長い廊下が続いていた。

 小さな窓がいくつも付いた深い色の木の壁の対面にそれぞれの部屋の扉が付いている。

 階段を上がって直ぐ横に日向の部屋。

 それに続いて日向が図書室と呼ぶ本棚で囲まれた部屋。

 そして二つのゲストルーム。

 そのうちの一つが菊子に与えられた部屋だった。

 自分の部屋に案内された菊子は目の前の風景に目を輝かせた。

 菊子が住んでいた部屋は、家賃六万八千円の1Kのアパートだった。

 部屋の広さは六畳きっかり。

 ベランダはあるが、ベランダに出てみても見えるのは隣のビルの壁だった。

 それが、この部屋ときたら、広さは八畳ほど。

 大きな窓からは庭の桜の木と青空が見える。

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