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 日向の話を聞いて、前の家政婦が辞めたのはそんな理由か、と菊子は納得した。

 こんな話が現実にあるものか。

 世の中、何が起こるか分からない。

 菊子はそんな事を思った。

「まあ、それはそれは……凄い話ですね。それで、あなたは、私をその家政婦さんと同じカテゴリーだと思っていらっしゃる訳ですね? 私が目黒さんの財産目当てに友達として近づいて、家政婦として家に乗り込んで、さらに目黒さんにハニートラップを仕掛けようとしている……私を、そんな女だと思っていらっしゃる訳ですね?」

 菊子の台詞に日向は、はんっと鼻を鳴らす。

「あにきに近付く女はたいがい、そんな女だよ。あんただってそうなんじゃないのか? この間だって、飲み代、あにきに奢らせたんだろ。いや、訊いた話じゃ、しょっちゅう奢らせてるらしいじゃねーか!」

 菊子は怯む。

「うっ、それは目黒さんが奢ってくれるって言うから、ありがたく奢られたまでよ」

「何だよ、それ! そんなハイエナみたいな女のどこを信用出来るか!」

「は、ハイエナ……」

 確かに菊子は、時々、雨に奢って貰っていたし、それをありがたく受け続けてもいた。

 しかし、ハイエナ。

 ここまで罵られる事をして来ただろうかと、菊子は反論に試みた。

「いや、確かに奢ってもらってはいましたけど、私、そこまででしょうか? 別に、奢り目的で目黒さんと飲んでいた訳では無いですし、基本割り勘で飲んでいましたよ」

「じゃあ、この仕事の事はどうなんだよ。友達に一日十万で家政婦に雇いたいってとんちんかんな事言われて、普通引き受けるか? それこそ、金目当てじゃねーか!」

「うっ……確かに」

「ほら見ろよ」

 勝ち誇った顔の日向に、菊子は冷や汗を隠し、すまし顔を張り付けた顔で物申す。

「ええ、確かに、この仕事の件については私、目の前の金に目がくらみ、引き受けました。プライドも投げ捨て引き受けましたよ。でも、それが何です? この件はほかならぬ目黒さんからの提案。目黒さんも承知の事でしょ? 何が悪いのかしら? ついでに、奢ってもらった件に関しても、目黒さんの好意を甘んじて受けていた私も悪いですが、私の方から奢ってくれと言った事は一切ございません。目黒さんの方から言い出した事です。私が悪いというのなら、直ぐに奢ってしまう目黒さんの方にも問題があるのでは?」

 言い終わってから、ちと余計な事を言いすぎたかしら、と菊子は反省した。

 日向と出会った時、菊子が張り付けていた慎まし気な雰囲気は最早壊れていた。

 マシンガンの様に吐き出された菊子の台詞に日向は目をパチパチさせている。

「あんた、あにきのせいだって言いたいのかよ?」

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