第39話 2人の誕生日
「わぁ・・・よく取れたね、ここ・・」
高級そうな和室の部屋を見渡しながら、薫が呟く。てっきり近場で済ますのかと思っていたが、健悟は近場は近場だが、一泊二日で温泉宿を手配していた。
「寒いし、クリスマスに温泉はどうかと思ったんですが、薫さん、広いお風呂に入った事ないって言ってたから、ここにしました。・・・と言っても、大浴場で薫さんの裸を他の人に見られるのは嫌なので、部屋に温泉が付いてるとこにしました」
そう言って、部屋の奥にある引き戸を開けると、そこは露天風呂になっていた。健悟のヤキモチにも似た理由に少し呆れながらも、薫は初めての露天風呂に歓喜を表す。
「ファミリーやカップル向けなので、そこそこ広いですよ」
「本当だ・・・健悟くん、俺、本当に嬉しい。あんなちょこっと話した事を覚えてくれたんだね。ずっと平気だと思ってたけど、こうやって目の当たりにすると、本当は憧れてた分、凄く嬉しいよ」
満面の笑みで健悟を見上げると、健悟も満足そうに薫を見下ろす。
「どうします?これから食事なんですが、先に少し入りますか?」
「うーん・・・楽しすぎて時間ずれちゃうと旅館の人に悪いから、食事をしてからゆっくり入ろ?」
「わかりました。じゃあ、それまではのんびりしてましょう」
薫の手を取り、テーブルのある方へ向かうと、座椅子に腰を下ろし、膝の上に薫を座らせる。
「け、健悟くん?」
「今日はずっとこうしていたいです。せっかくの初めての旅行なんです。イチャイチャしましょう」
薫を抱きしめ、肩に顔を伏せ、頭でグリグリと甘えた仕草をする。薫は健悟の可愛さに身悶えし、仕方ないなぁと健悟の頭を撫でる。しばらくは2人で特に会話を交わすこと無く、ただただ甘い雰囲気に身を任す。
それからすぐにご飯が運ばれてきて、薫は真っ赤になりながら慌てて健悟の膝から降りると、健悟は小さな声で残念と呟いた。
旬の料理を余す事なく味わった2人は、早々と露天風呂へ入る。冬の澄み切った空気のせいか、空の星が綺麗に浮かんでいた。
風呂から上がると、あらかじめ旅館の人に頼んでいたのかケーキが運ばれてきた。それを切り分け、食べ終わる頃に健悟が鞄から封筒を取り出し、一枚の紙をテーブルに広げる。
薫はそれを覗き込むと目を大きく見開く。
「健悟くん・・・これって・・・」
「はい。受かりました。予定より電車で30分もかかる遠い場所になりましたが、4月からは新米教師です」
「凄い!良かったね!本当に良かった・・・」
広げられた紙を手に取りながら、薫は何度も読み返す。そして、薫も鞄から箱を取り出しテーブルに置くと、健悟に開けるように促す。
「なんかお揃いの物がいいなぁってずっと考えてて、でも、体育教師がアクセサリー付けるのはだめかな?とか考えちゃって凄く悩んだけど、これにした。腕時計とかも考えたけど、俺は基本自宅仕事だから、あまり身に付けないだろうし、これなら邪魔にならないかと・・・」
箱を開けて見つめる健悟の顔をチラチラと様子見をする薫に、健悟は嬉しいと笑顔で答える。
箱にはシルバーの細めのチェーンネックレスが入っていた。健悟の笑みに安堵した薫は俺のはコレと箱を取り出し健悟に見せる。
健悟はまた鞄をゴソゴソして、今度はテーブルに箱を置く。
「薫さん、俺もお揃いの物が欲しくてこれにしました」
そう言って箱を薫に向けながら開くと、同じくシルバーのペアリングが入っていた。
「体育教師でも結婚指輪くらい身に付けます。もし、授業とかで外すときはこのネックレスに通して身につけます。だから、薫さんもこのリングを身に付けて欲しいです」
健悟は薫の手をそっと掴み、箱からリングを取り出すと薬指へはめる。そして、今度は薫に付けてくれと自分の手を差し出す。
薫は目を潤ませながら、健悟の手を取りリングをはめた。
「薫さん、俺がもう少し社会人に慣れたら、パートナーシップ取りませんか?養子縁組も考えたんですが、もし将来、国内で結婚が認められた時、養子縁組だと解消ができないのでパートナーシップを選びましょう。それから、正式に結婚とまでは行きませんが、俺は薫さんと式を挙げたいです。俺の家族と誠と佐藤さんも呼んで、こじんまりでいいんです。みんなに祝福してもらいたい」
健悟の話を黙って聞いていた薫の頬にはいつの間にか涙が溢れ、嬉しくて言葉が出ない薫は何度も頷いた。
「俺がずっと薫さんのそばにいます。薫さん、愛してます」
「うっ・・うぅ・・お、俺、俺も・・・」
最後まで言葉に出来ずにいたが、薫の言葉に健悟は笑みを浮かべ、薫の頭を撫でた。
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