第27話 取り戻せない絆
呆然とした表情で公園のベンチに座り込み、握りしめた手紙を見つめていた。
隣の奥さんと別れてからしばらく立ち尽くしていた薫だったが、母方の叔母へ連絡すると今まで連絡しなかった事を酷く叱られた。
父と母はだいぶ前からうまくいっておらず、それでも薫が成人するまではと一緒に暮らしていたが、薫の件があってから急速に冷えていったと話してくれた。
父とうまくいってなくても薫を支えとして頑張っていた分、薫の事がショックだったらしい。
一時は理解しようと努めていたが、父から責められ、挙句には他に一緒になりたい人ができたと告げられ、母は壊れたそうだ。
今は実家に戻っているが、精神科にも通っており、会うのは難しいと言われた。
もし、連絡を取っていたら、薫が側にいて支えてくれたらこうならなかったと泣きながら言われ、薫はただただ謝る事しかできなかった。
どのくらい経ったのか、辺りは日が沈み始め、体は冷え切って感覚がわからなくなっていたが、その場から立ち上がる事が出来ずにいた。
そうしていると携帯から着信音が鳴る。表示される名前に一瞬出るのを躊躇うが、心配かけまいと電話を繋ぐ。
「薫さん?今、大丈夫ですか?連絡ないから気になって・・・」
その声を聞いた途端、薫の目から涙が溢れる。
「薫さん?泣いてるんですか?」
必死に声を我慢するが、健悟の心配する優しい声が余計に涙を誘い、嗚咽が漏れる。
「薫さん、今どこですか?迎えに行きます」
「ふっ・・・うぅ・・・ごめん」
「何で謝ってるんですか?今から行きます。場所、教えてください」
「うぐっ・・・ごめん。泣き止んだら・・ひぐっ・・帰るから・・・もう少しだけ・・・1人にさせて・・・うぅ・・」
「嫌です。迎えに行きます。だから、場所を教えてください。実家の近くですよね?とりあえず、そこまで向かいます。だから、落ち着いたら場所を教えてください」
そう言うと健悟は電話を切った。きっとこちらに向かう為だろう。そう思いながら、震える手で公園の場所をメールする。健悟が来るまでに泣き止まなきゃ・・・そう思えば思うほど、涙が止まらずにいた。
「薫さん!」
健悟の声に薫は顔を上げる。辺りはすっかり暗闇に包まれ、公園の街灯だけが小さく灯っていた。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で近づいてきた健悟を見上げる。そんな薫を見た健悟は薫の隣に座り、強く抱きしめた。
「こんなに体が冷えて・・・また、風邪引きますよ」
健悟のぬくもりと優しい声に薫はまた、涙が溢れる。健悟は何も言わず、抱きしめたまま薫が泣き止むまで、ずっと離れなかった。
薫が落ち着いたのを確認すると、体を離し薫の顔を覗き込む。
「今日はどこかに泊まりましょう。体を温めないと・・・」
「・・・家に帰りたい。この街にいるのは辛い・・・」
か細い声で捻り出す言葉に、健悟は携帯を取り出し何かを調べ始めた。
「薫さん、ここから3駅離れた所に観光客用のホテルがあります。空きがあるみたいなのでそこに泊まりましょう。早く体を温めないと・・・」
そう言うとゆっくり薫を立たせ、腰に手を回して歩き出す。いつもなら人目を気にして手を振り解く薫だが、それを気にする気力も湧かないでいた。
今はただ健悟の温もりに触れていたかった。
「バイト・・・どうしたの?」
「変わってくれる人がいたので、お願いしてきました」
「ごめん・・・・」
「謝らないでください。俺が薫さんを1人にしたくなかっただけです」
「うん・・・ありがとう」
優しく薫の頭を撫で、健悟は微笑む。その笑顔に薫はまた涙が出そうになるのを必死に堪えた。
健悟は薫にジャケットのフードを被せ、タクシーで行こうと大通りまで歩く。薫は頷きながら、健悟に寄り添いながら歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます