第25話 踏み出す勇気
話をしている内に、健悟からそろそろ出ないと新幹線に間に合わないと催促されて、お辞儀をしてから荷物を持って席を立つ。
玄関には健悟の家族が見送ると、居間から出てきていた。薫が靴を履いていると健悟が新幹線乗るまで見送ってくると家族に告げる。
薫は頭を下げ、お邪魔しましたと伝えると健悟母が薫の前に立つ。
「薫くん、私たちはあなた達を応援するつもりよ。何かあったら相談してね」
「弟をよろしく頼みます」
「無愛想で何を考えてるか分かりにくいと思うけど、優しいのは保証するわ。だから、頼りないと思うけど安心してね」
義人と恵が母の言葉の後に声をかける。すると梨花がある本とペンを差し出す。
「健悟くんから教えてもらって、昨日買ってきたの。サインくれる?」
その差し出した本に視線を移すと、薫の漫画だった。さほど有名でない自分の本を大きなお腹なのに探してくれたのかと思うと、目頭が熱くなる。
薫は本を取ってサインを書き、それを梨花に渡す。すると健悟父が口を開く。
「また、来なさい。今度は健悟と2人で、家族の一員として堂々と来なさい」
その言葉に我慢していた涙が溢れる。ぼたぼたと大粒の涙を流す薫に周りはびっくりしながら薫に慰めの言葉をかけた。
時間がないからと健悟は薫の手を取り、涙を拭う。薫はまた来ますと伝え
頭を下げ、家を出た。
ドアが閉まるなり、父親は部屋へと戻る。
「お父さんが認めるとは思わなかったな」
義人の言葉に恵が頷く。母親はふふっと笑い、そうでも無いのよと返す。
「お父さんね、部屋で何してたと思う?使い慣れないパソコンで同性愛について調べてたのよ」
「えっ!?」
母親の言葉に皆が驚きの声をあげる。
「あの人、気持ちを表現するのも下手で不器用だからどうしたらいいのか、わからなかったのよ」
「意外だわぁ・・・」
恵の言葉にそうかしら?と答える。
「あの人ほど子煩悩な人、見た事ないわ。わかりにくいと思うけど、本当にあなたたちの事を大事に思ってるのよ」
そう言って、母親も父親の部屋へと入っていった。
「素敵な家族だね」
鼻を啜りながら、薫は健悟に伝える。
「ありがとうございます。母達には前に言われましたが、まさか父が許してくれるとは思ってなかったです」
少し照れたように健悟が答える。そんな健悟を見ながら、薫はジャケットのフードを被り、そっと健悟の手を握る。急な温もりに健悟はびっくりするが、すぐに薫の手をぎゅっと握り返す。
「少しだけ、こうして歩きたい。いいかな?」
「もちろんです」
「俺、もう少し勇気を出そうと思う。前は隣に並んで歩く事も気が引けてたけど、やっぱりこうして手を繋いで歩きたい。フード被ってれば分かりづらいでしょ?こんな少しの勇気だけど、それでも健悟くんと一緒にいる為には必要なことだって気付いたんだ」
繋いだ手をプラプラさせながら、健悟を見上げる。
「それから・・・俺も両親ともう一度向き合ってみる。応援してくれる?」
「はい。ずっと側で薫さんを応援します」
そう言って健悟はフードの隙間から薫の頬撫でる。互いに微笑みあっていると、近くで物が落ちる音がして振り返ると、口を開けたまま買い物袋を落とす誠が立っていた。
「おまっ・・・連絡取れないと思ったら・・・」
言葉になっていない言葉を発する誠を見て、慌てて手を離そうとする薫に健悟は首を振り、手を強く握る。
「薫さん、顔は知ってますよね?俺の親友の誠です」
「し、親友!?」
「違うのか?」
「い、いや。そんな事、言われた事無いから」
健悟の急な親友発言に少し戸惑いながら、誠は薫にペコリと頭を下げる。
「こちらは知ってると思うが薫さん・・・林 薫さん、俺の恋人だ」
「け、健悟くん・・・」
慌てる薫に健悟はニコッと微笑む。その笑顔を見た誠はキモいと言葉を投げかける。
「お前、明日は同窓会できないから、少人数の仲間内で集まろうってなって連絡してたのに、ずっと連絡付かないから心配したんだぞ!」
健悟の肩をバシバシ叩きながら誠は大きめな声をあげるが、健悟は微動だにせず、すまんと返事をする。
「色々あってな。あー・・・一応、報告しとく。家族に話したから」
「えっ!?あ・・・それで・・・」
相変わらず察しがいい誠は言葉を詰まらせる。
「あ、俺が勝手にした事だから。薫さんじゃない。薫さんは、連絡取れなかった俺を心配して来てくれただけだ」
「何だよ、お前、薫さんにも連絡絶ってたのか?言っただろ?信頼関係を築けって・・・」
「すまん」
項垂れる健悟にしょうがない奴めと、誠は健悟の胸をコツンっと小突く。そんなやりとりを見ながら、最初は強張っていた薫の表情が和らぐ。
「薫さん、こいつ、体がでかいだけで中身は子供なんで、色々大変だと思うんですが、よろしくお願いします」
誠は薫にそう告げると頭を下げる。それから、ニカっと笑い、言葉を付け足す。
「なんせ、初恋なんで色々ご迷惑かけます」
意味ありげに放つその言葉に、薫は顔を赤らめた。
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