第22話 家族

荷造りをしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえる。振り返ると父以外のみんなが部屋に入ってきた。

「健悟、少しいいかしら?」

母にそう言われ健悟は頷く。その場にみんなが腰を下ろすと、また母が口を開く。

「もう少し残ってくれないかしら?」

「・・・・」

「そりゃ、びっくりしたわよ。でもね、びっくりしたってだけで、何も反対している訳じゃないの」

「母さん・・・」

「そうだな。正直、女の子としか付き合ってなかったお前が、いきなり男と付き合うってなったら、そりゃあ、びっくりするわな」

そう言って隣に座っていた義人が健悟の肩を叩く。

「そうそう。犯罪を犯したわけでも無いのに、どうしてコソコソ帰ろうとするのよ。気まずくなるのは当たり前じゃない。どう答えていいのかもわからないんだもの」

恵がため息を吐きながら話す。梨花も頷きながら口を開く。

「確かに今は緩やかになったとは言え、それが浸透しているわけでは無いから戸惑うのは当たり前よ。家族の問題でもあるけど、近所の目ってのもあるからね」

梨花の言葉に健悟はハッとする。もし、家族に理解が得られても、今後、薫と付き合っていく上でこの家にも出入りする事になる。それが周りに変な噂となって広まると家族もその対象になるのだ。

「みんなでね、話し合ったの」

母は優しく微笑み、話を始めた。

「今まで無頓着だった健悟が、あんなに声を荒げて話すって事はそれだけ真剣なんだって思ってね。それで、みんなで受け入れて、健悟達を守ろうって決めたの。恵が言うように犯罪を犯したわけでもない、ただ、本気で惚れた人が男の人だったってだけで、何もやましい事じゃない。だから、健悟も堂々としてなさい。お父さんは、ほら、ああいう性格だから、もう少し時間を上げて欲しいの」

「・・・・ありがとう」

「やだ、何泣いているの?」

「こいつが泣いてるなんて、雨でも降るのか?」

「そうね、絶対雨だわ。小さい時からいじめても泣かない生意気なやつだったのに、恋は人を変えるのね」

照れ隠しなのか、変わるがわる揶揄ってくる家族に健悟は何度もありがとうと呟いた。

家族が部屋を出てから、薫に連絡しようと携帯の電源をつけるが、切っていたにもかかわらず電池がないのか、電源が入らなかった。健悟は急いでベット脇にあるコンセントに充電器を差し、携帯に繋げる。付くまで少し時間がかかると思い、ベットに寝そべると安堵からか寝不足だった健悟は寝入ってしまい、夕方に薫からのメールに気付く事になる。


「薫さん!」

うっすらと目を開け、その声に顔を向けると今にも泣き出しそうな顔で健悟が覗き混んでいた。

「・・・・ここは?」

「俺の家です。薫さん、高熱で倒れたんです」

辺りを見回してから窓に視線を向けると、カーテンの隙間から暗闇が見えた。

「まだ、熱が高いのでもう少し寝てください。それから、勝手に悪いと思ったんですが、携帯にホテルから確認の連絡があって、俺の方でキャンセルしときました。あと、念のため、俺の携帯から佐藤さんにも連絡してます」

健悟の手際わさに感心しながら、小さな声でありがとうと呟く。

「薫さん、すみません。もっと早く気づいていれば、こんな事にならなかったのに・・・」

薫の手を指で摩りながら何度も謝る。ずっと握っててくれたのか、熱のせいなのか薫の手は暖かかった。

「迷惑かけてごめんね」

「迷惑だなんてっ・・・いや、俺が全部悪いんです。俺が尻込みしてしまったから、薫さんに連絡取れなくなってしまって・・・俺が守るとかいいながら、薫さんを不安にさせて、傷付けてしまった」

「・・・何があったの?誰かにひどいこと言われた?」

「そんなんじゃ無いです。俺が1人で悩んで、傷付いただけです。誰のせいでもありません」

「俺は・・・そんなに頼りないかな?俺は君の何?1人で悩んで、簡単に連絡を切れる関係?」

今までの不安が口に出る。頭が朦朧として、こんな事を言いたい訳じゃ無いのに、涙が溢れて止まらない。

「俺は受け止めるから、終わるにしてもちゃんと健悟くんの口から聞きたい」

「誤解です。俺は終わらせたく無いです!」

「じゃあ、どうし、ゴホッゴホッ」

熱でカラカラの喉から咳が出て、言葉が続かない。健悟は慌ててそばにあった水を薫に飲ませる。それから濡れタオルで薫の涙と汗を拭う。

「ちゃんと話ます。だから、先に熱を下げましょう。今は、俺は別れるつもりはないという事だけ信じてください」

健悟の真剣な眼差しに不安を完全に拭えて訳ではないが、少し安堵したのか薫はまた眠りについた。

眠っている間にも、何となく健悟が手を握っているような感覚が薫を安心させた。

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