第20話 君を想う
健悟の様子がおかしい・・・
あんなに毎日連絡をくれたのに、元旦に連絡を取ってからもう三日も返事がない。
それに、健悟が最後に言った言葉が気になる。
(俺、ちゃんと考えますから、薫さん、待っててくださいね)
何の事かと尋ねたが、話を逸らされ電話は切れた。あれから連絡が来ない。
帰って来るまであと、4日もある・・・でも・・・
薫は寝室からバックを取り出し、財布などを慌てて詰める。コートをかけてあるハンガーからひったくる様に掴み取り、携帯を片手に家を出る。
年始にチケットが取れるとは思えないが、もしかしたらキャンセルとか出て乗れるかもしれない・・そう思うと、足が次第に早くなる。
もしかしたら、風邪を引いたりして連絡が取れないだけかも知れない。でも、もしかしたら・・・薫の頭の中にいろんな事が思い出される。
2人で一緒にいた所を見られて何か言われたのかも知れない。クリスマスの日?それともずっと健悟が泊まってて、買い物とか一緒に行った日?
健悟が傷付いているのかもしれない。もしかしたら後悔しているのかも・・・その考えが薫の背中をゾクリと冷やす。
もしそうなら、会いに行っても会ってくれないかもしれない。でも、終わりにするにしてもこんな距離の取られ方は嫌だ。終わらせたくないけど、終わらせなければいけないなら健悟の口から聞きたい。
いつも真剣に向き合ってくれた健悟だからこそ、この距離感が不安でたまらない。
何よりあの健悟が連絡もくれない状況が怖かった。それだけ、傷付いているのかもしれない・・・
たまたま空きが出ていると席が取れ、新幹線に飛び乗る。健悟が住んでいた街の事は何度か聞いたことがある。自宅まではわからないが、近くまでは行けるはず。
着くまでの一時間半がとてつもなく長く感じた。不安からどんなに温めても熱を持たない手をぎゅっと握ったまま、到着を待った。
「ここだ・・・・」
目の前に少し古びた神社があった。そんなに広くない神社ではあるが、以前、健悟が毎年家族でお参りしていると話していた事を思い出していた。
薫は携帯を取り出し、健悟にメールを送る。
この三日間、既読も付いてない。もしかしたら、このメールも既読が付かず、会えないかもしれない。
今日だけ、今日だけ待ってみよう。幸い、駅の近くのビジネスホテルは予約は取れている。ここで待てるまで待ってみよう。それで、連絡が来なかったら、俺から終わらせよう・・・
鳥居の前の階段に腰を下ろし、冷えた手を擦り合わせる。
待っている間、今までの楽しかった風景が脳裏に思い出される。
思えば本当に不思議な出会いだった。あんなに不信感の塊で怖かった健悟をこんなに好きになるとは思わなかった。
もう傷つきたくないと固く閉ざした扉を、優しく叩いて、ドアの外で根気よく声かけてくれて、ドアを開けても荒々しく踏み込むわけでもなく、ただ暖かい笑顔で俺をみていてくれた。
健悟の言葉が、笑顔が、温もりが全てが愛おしい。
終わりたくない。手放したくない。まだ側にいたい・・・健悟への未練が、想いがとめどなく溢れて、薫の頬に流れ落ちる。
会いたい・・・会いたいよ、健悟くん・・・
「薫さん!」
名前を呼ばれた気がして、目を開ける。辺りは既に茜色に染まっていた。いつの間にか眠ってしまった薫はぼーっと声の方に顔を向ける。
視界がぼやけて上手く見えない。
「薫さん!」
今度は力強く名前を呼ばれる。視界の先には黒い影がどんどんと近づき、会いたくて焦がれた男の姿に代わっていく。
「健悟くん・・・」
「薫さん、何でっ・・あぁ、こんなに体を冷やして・・・」
健悟は着ていたコートを脱ぎ、薫を包むと温めるように抱きしめる。その温かさが、また薫の涙を誘う。
「薫さん、大丈夫ですか?どこが辛いんです?」
急に泣き出した薫に、慌てて体を摩り、頬に手を当て涙を拭う。
「薫さん、熱が、熱が出てる」
薫を抱き抱えようと手を足にかける健悟の手を止める。
「健悟くん・・・会いたかった・・・このまま連絡が取れなくて、会えなかったらどうしようかと思った・・・」
「あっ・・・すみません。色々あって、落ち着いてから連絡しようと思って・・・いや、本当にすみません。俺の勝手な我がままです・・・」
申し訳なさそうに項垂れる健悟の頭を撫でながら薫は口を開く。
「健悟くん、ごめんね。俺が健悟くんをそんな顔にしてるんだね」
「なっ、ちがっ・・」
言葉を遮るように言葉を続ける。
「嫌だけど・・・本当に嫌だけど・・・こんな風に話も、顔も見れずに終わりたくなかった・・・勝手に会いにきてごめん・・・俺、ちゃんと幸せだったよ。だから、もう大丈夫だよ」
「薫さん・・・何を・・・」
「帰るね・・・」
コートを健悟に返し立ち上がる。ずっと膝を抱えて座っていたせいか、少しよろける。健悟が慌てて体を支えるが、薫はその手を振り解く。
「迷っているなら、今、終わらせた方がいい。これ以上、健悟くんを悲しませたくない。俺は大丈夫だから・・・」
「薫さん・・・」
長くもない階段を一つ一つ降りる。足に力が入らない。頭もくらくらする。
「待って、薫さん!誤解だ!」
後ろから腕を掴まれ、力のない体はそのまま倒れ込み、薫は気を失った。
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