第15話 告白
「お風呂、上がりました」
まだ水滴が垂れる髪にタオルを当てながら薫はリビングにいる健悟に声をかける。
学生らしい少し広めのワンルーム、そこに健悟の体型に合わせた大きなベットがあり、それが場所をとっているせいか、テレビもなく、ポツンと小さなテーブルと本棚だけが置かれている殺風景な部屋だった。
健悟は一瞬振り向いたが、慌てて顔を背ける。
「コーヒー淹れたので、飲んでください」
コトンと音を立てて、テーブルにマグカップが置かれる。薫は頷いて腰を下ろすとカップを手に取り、啜り始めた。
「お、俺も風呂入ってきます」
ベットに置かれた服を取ると、足早に風呂場へと健悟は向かった。いつも冷静な健悟がソワソワしてる様子が、余計に薫を追い詰める。
(ど、ど、どうしよう・・言われるがまま来ちゃったけど、このまま寝れるかな・・何も・・無いよね・・?)
胸の高まりが治らない。健悟が隣に来たら心臓の音が聞こえてしまうのでは無いかと気がきでない。
いらぬ妄想が頭に浮かんでは、振り払うように頭を振り、平常心を装う。
そうこうしている内に、健悟が風呂から上がり自分の分のコーヒーを作り、薫の向かいに腰を下ろす。
「薫さん、今日はベットに寝てください。俺は下に布団敷いて寝ます」
「え!?」
「薫さんを下に寝かすのは気が引けます。それに、薫さんの家でも主の薫さんはソファー、俺はベットで寝てますから、それと一緒です」
「そ、それは、ソファーはベットになるけど、健悟くんには小さいから・・・」
「いえ、それでは俺の気がすみません。お願いします、ベットで寝てください」
哀願するように薫を見つめる。その顔を見ながら、ウゥッと小さく唸り、頷く。
「それにしても、薫さん、あんな時間からサウナ行って泊まらず帰るつもりだったんですか?」
「あぁ・・シャワーだけ入るつもりだったので・・・」
「シャワー?大浴場とかサウナに入らず?」
「うーん・・・入りにくいんだ。ほら、俺、高校の時はゲイバレしてたでしょ?だから、修学旅行の時にみんなに嫌がられて、設備されてたシャワーだけ入った事があって、それから何となく、大浴場とかは苦手なんだ」
「・・・・それはひどく無いですか?」
健悟が眉をひそめ、薫を見つめる。薫はふふっと笑い、話を続けた。
「それがそうでも無いんです。高校生と言えば性に多感な時期です。万が一、反応しちゃったら、それでこそ俺の人生は詰んでました。誰彼構わずムラムラする訳では無いのですが、例えば健悟くんでも多感な時期に女子風呂に1人入れられたら、そんなつもりなくても反応しちゃうでしょ?それと一緒です」
「・・・・」
「本当にお風呂の事はどうでも良かったんです。その後が最悪でした。大広間で布団並べて寝るんですが、俺だけ離れた場所に寝かされたんです。ひどく無いですか?」
黙ったままの健悟に、わざと明るく話をする。それでも、黙ったままの健悟を見て、失敗したな・・・と薫は俯く。
しばらく沈黙が続いた後、健悟が手を伸ばし、薫の手を取る。それに釣られて薫は顔を上げると、健悟の顔が思ったより近くにあり驚く。
「薫さん、こんな話をしたからとかでは無いので誤解をしないで下さい。俺、やっぱり薫さんが好きです」
急な告白に薫は一瞬何を言われたのか分からず、ぼーっと健悟の顔を見つめる。
「俺、薫さんの事愛おしいと思ってます。胸がキュッとなります。それに・・・俺の部屋で薫さんが風呂入ってると思うと凄く鼓動が早かったです。お風呂上がりの姿を見た時は心臓が止まるのかと思いました。俺は、この感情は恋だと確信してます。男だとか関係なく、薫さんという人間に俺は恋してます。可愛いと思うし、愛おしいと思うし、大事にしたいと心から思うんです」
真っ直ぐに薫を見つめ、想いをぶつける健悟に心が揺さぶられる。
「薫さんが何を心配しているのかも、充分理解しています。でも、俺は薫さんに出会えて、薫さんに恋をした。この奇跡を逃したくないです。そして、薫さんが受け入れてくれるのなら、絶対に奇跡を手放しません。薫さん、俺と付き合ってくれませんか?」
薫の手を握る健悟の手が少し震えているのが伝わる。全身で伝えてくる健悟の想いに涙が溢れた。
「俺も・・・俺も健悟くんと奇跡が見たい。健悟くん、俺も健悟くんが好きです。臆病だからこの先も不安で健悟くんを困らせると思うけど、俺を、俺を健悟くんの恋人にしてください」
声を絞り出すように、それでも健悟へしっかりと届くように薫は伝える。健悟は安堵の笑みを浮かべ、薫の手を引き寄せ抱きしめた。
「薫さん、これからは俺が薫さんを幸せにします。悲しい思い出が消えてなくなる様に、俺が幸せな思い出でいっぱいにします」
力強く抱きしめ囁く声に、薫は何度も頷く。特別運命的な出会いでもなかったけど、健悟に出会えて良かった・・・。健悟が俺を見つけてくれて、声をかけてくれて、根気良く俺に向き合ってくれて・・・今まで健悟がしてくれた事全てが、走馬灯の様に思い出される。あぁ・・・俺、今でも充分幸せだ・・・。
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