第14話 超えられない線

「薫さん、大丈夫ですか?」

健悟に体を支えられ、薫はヨタヨタと歩く。健悟と食事に出たのはいいが、家で言われた言葉が何度も頭の中でリピートして、緊張からか普段飲み慣れないお酒を飲んでしまった。

「すみません・・・久しぶりに飲んだから酔っちゃったみたいです」

家の鍵を健悟に渡しながら、ボソボソと喋る。健悟は片手で薫を支えながら、玄関を開け、薫をリビングへと運んだ。

「お水入れてきますね」

そう言ってキッチンへ向かうと、薫の体はズルズルとソファーに引き寄せられていった。

グラスに水を入れて戻ってきた健悟は、テーブルにグラスを置いて薫の体を抱き抱え水を飲ませる。

そして、そのまま抱きかかえて寝室へ向かい、薫をベットに寝かせた。

「薫さん、俺、今日ソファーで寝て行っても大丈夫ですか?」

「・・・はい。すみません、俺のせいで終電逃してしてまって・・・」

「いえ、薫さんと一緒に入れる時間が増えて、良かったと思ってます」

健悟の大きな手が薫の頭を撫でる。

「・・・健悟くん、いつもありがとう」

「何がですか?」

「俺に優しくしてくれて、真っ直ぐに向き合ってくれてありがとう」

「・・・いえ、半分は俺のわがままですから・・・」

「・・・もう少し・・もう少し待っててくれるかな?」

「・・・はい」

「ごめんね・・どうしても、怖いんだ。ノンケの君と向き合うのが・・・それに、俺が受けた傷を健悟くんに味あわせてしまうかも知れない可能性が怖いんだ。大人になるにつれて痛みは鈍くなったと言ったけど、痛いものは痛いんだ。それが耐えれなくて俺は壊れた。だから、健悟くんが痛いのは、壊れるのは嫌だ」

「・・・・」

「臆病でごめんなさい」

「俺がもっと強くなります。薫さんが不安にならない様に、もう傷付かないように、もし、傷付いてしまったのなら俺が癒せるように強くなります。少なくても俺は薫さんを傷つける様な事はしません」

「うん・・・ありがとう」

そう言い残すと薫は眠りについた。健悟はしばらく薫の頭を撫でながら薫を見つめ、そっと頬にキスをする。そして、ゆっくりと立ち上がり、リビングへと向かった。

翌日、薫が目を覚ますと健悟の姿はなく、テーブルに一度帰宅して大学に行く事、二日酔いに効くスープを作ったから飲んで欲しいとメモが置かれていた。

酔っても記憶はある薫は自分が言った言葉を思い出し、頭を抱える。

困らせちゃったかな・・・そう思いながら、自分の頭を撫でる。

健悟が撫でてくれた感触が残っていた。


それから3日後、薫はまた頭を抱える事となる。

自宅のシャワーのお湯が出ない。裸の状態で待てど暮らせどお湯が出ない。20分ほどシャワー口を見つめて、諦めのため息をつく。

服を着て時計を見ると19時を回っていた。携帯を手に取り、管理会社へ連絡する。幸いにも電話は繋がったが、修理は明日になると言われた。

明日は健悟が来る日・・・昨日、薫は少しでも原稿を進めておこうと風呂も入らず徹夜したので、今日入らないと二日も入ってない事になる。

だいぶ涼しくなったとは言え、日中はまだ少し暑さが残る。昼過ぎには原稿はひと段落ついていたが、そのまま寝てしまって今に至る。

銭湯に行こうか思い調べるも近所に銭湯はなく、シャワーが付いてる漫喫もない。

一駅超えた所に24時間のサウナがあった事を思い出し、チラッと時計を見ると20時を回っていたが、急げば泊まらずに戻ってこれると急いで身支度を始めた。

バックに服を詰め、簡易シャンプーは向こうで買おうと決め、玄関に着くと携帯が鳴った。

「健悟くん?ごめんなさい。今、急いで隣町まで行かなくちゃ行けなくて、落ち着いたら折り返していいですか?」

電話を取り、早口で健悟へ伝える。

「大丈夫ですか?何かあったんですか?」

「ううん。お風呂の調子が悪くて、隣町のサウナに行くんです」

玄関の鍵を閉めながら答える。

「あ・・じゃあ、俺の家に来ませんか?明日は休講だし、今日は家にいます。布団用意するので、そのまま泊まって行ってください」

健悟の言葉に一瞬体が固まり、返事に困っていると、それを悟ったのか健悟の方から口を開く。

「いやですか?」

「あっ、嫌じゃないです。・・・迷惑じゃないですか?」

「迷惑だなんて思うはずないです。むしろ、来てくれたら嬉しいです」

「・・・わかりました。お世話になります」

薫の返事に声が明るくなる健悟は、最寄駅を伝え、駅まで迎えに行くと言ってくれた。

(俺・・・大丈夫だろか・・・?)

今までは勝手知ったる我が家だったので、健悟が泊まっても別々に寝ている事もあり、何も気にする事はなかったが、健悟の家はきっと健悟の匂いが溢れている。

その空間で俺は耐えれるのか!?とモヤモヤした気持ちを抱えながら、指定された駅に向かった。


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