第11話 初めてのデート?
「うーん・・・」
もうすぐ深夜の12時を過ぎるのに、ベットに服を並べ薫は唸っていた。
「くぅぅ・・ここに来て人付き合いをしなかった俺を恨む」
自宅に篭りっぱなしの薫には服があんまりない。その数少ない服を睨む。
「こんな悩むなら買い物に行けば良かった」
締切の日、何日も短時間睡眠を繰り返し、二日も徹夜した薫は佐藤に原稿を手渡した後、健悟に今日は来なくていいと短い文を送り爆睡した。
いつもなら数時間で起きて色々食材を買い物したりとするのだが、今回の締め切りは健悟が頻繁に来たりしていて緊張もあったからか、筆の進みも悪く、残りの二日は死に物狂いで仕上げた。
その疲れがどっと来たのか、ほぼ丸一日眠り続けたのだ。目が覚めた時はまだ夜中で暗いのかと思って枕元の携帯を見ると、翌日の19時過ぎだった。
一日を無駄にした気がしてため息を吐きながら携帯をよく見ると、健悟から何通もメールが届いていた。
(締め切りお疲れ様でした)(おはようございます。これから大学行ってきます)(授業終わりました。まだ寝てますか?)(ご飯食べましたか?これからバイト行ってきます)
いつもの定期連絡に、返事が無い薫を心配した言葉が挟まれていた。その気持ちが嬉しくて薫もバイトしている健悟の邪魔にならない様に、短いメールを返信する。きっと、バイトの合間にも返事を待っているのかも知れない。
(健悟くん、今起きました。ご飯食べます)
きっとこんな短い文でも安心してくれるはず。そう思いながら、眠りすぎて重くなった体をベットから引きずり出す。
携帯を片手にリビングに向かい、テーブルに置く。顔を洗いに洗面所へ行き、重い瞼を冷やすように顔を洗う。顔を拭きながら、またリビングに戻ると携帯が鳴った。
「もしもし」
「おはようございます、薫さん」
電話口から健悟の声がする。
「健悟くん、今、バイト中じゃ無いんですか?」
「そうなんですが、やっと連絡が来たので、声が聞きたくて・・・」
健悟の言葉に耳が熱くなるのがわかる。顔を洗った際に冷たくなった指先を、受話器の反対側の耳に当てる。
「あ、ありがとうございます」
「今日は行ってもいいですか?」
「あ、健悟くんも俺の世話で疲れたでしょ?今日まではゆっくり休んでください」
「そうですか・・・じゃ、じゃあ、明日、俺、授業が2限までなのでお昼食べて映画でも見に行きませんか?」
「え、映画ですか?」
「はい。この前、薫さんが話してた漫画の実写版が明日からなんです」
「えっ!?そうだっけ?」
「はい。だから、一緒に見に行きませんか?」
「行きたいです!」
即答した薫の返事に、健悟がふふっと笑う。それから、時間と待ち合わせ場所を決めて電話を切った。
ずっと楽しみしてた映画だったので、浮き足立てながら、キッチンに向かい冷蔵庫を開ける。そこには、健悟が作り置きしていた簡単なおかずがタッパーに入っていた。
それを取り出し、冷凍庫からもラップに包んだご飯を取る。レンジで温めたホカホカの食材を皿に移し、テーブルに並べる。
口を忙しなく動かしながら、明日の映画に向けて漫画を読み返そうか悩んでいると、ある重要な事に気付き手が止まる。
これは、デートなのか・・・?
あの話はうやむやになったとは言え、一応、健悟からは告白的なものを受けた。その相手と出かけるのはデートなのだろうか?
経験値の少ない薫は急に頭を抱える。
いや、健悟くんもまだ好きかどうかわからないって言ってたし、これは友達として出かけるんであって、デートでは無いはず・・・いや、しかし、そうなりたいと言っている相手と出かけるのは、漫画的にはデートだよな?
経験がなくても少女漫画作家の端くれ。頭の中で、デートの妄想が膨らむ。
一緒にお昼食べて、映画館でポップコーンなんか買って、映画は恋愛物だから雰囲気に飲まれて手なんか繋いじゃったりして・・・薫は顔を赤らめながら、ベタな展開の妄想をする。
そして、さらに重要な事に気づく。服は何を着ていけばいいんだ!?俺、服あまり持っていない!急いで食べ掛けのご飯をかき込みクローゼットへ走る。
そして冒頭の様に唸り声を上げた。
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