第7話 初恋の痛み
初恋は高校1年生の時だった。何となく同性が好きだと分かっていたから、恋をして実感した時でもあった。
相手は2つ上の先輩だった。面倒見が良くて、俺なんかとも仲良くしてくれて、みんなから好かれてて人気者だった。
ずっと想ってるだけでいいと思っていたのに、先輩の卒業式の日にもう会えなくなる寂しさと、好きな気持ちが溢れ出て、告白してしまった。
あの日の先輩の顔が未だに忘れられない・・・あの、嫌悪そうな顔・・・。悲しくて沢山泣いたけど、もう会う事が無いからと、何にも無かったフリをして学校に行ったら、俺が告白した事が学校中にバレていた。
卒業式の後、先輩が友達に話し、その友達が友達に、後輩にと話した結果だった。それからの二年間は最悪だった。
暗い顔をしてると余計にターゲットにされると思って、なるべく開き直ってニコニコしてたら、揶揄われる事が少なくなった。でも、ずっと嫌悪感で見られたり、噂されたり、悪戯されそうにもなった。
高校生活を我慢すればいいと思っていたら、大学に同じ高校の生徒がいて、結局は大学中も同じだった。
その内、笑うのがしんどくなって、人と距離を置くようになって、その反動か漫画を描くことに夢中になっていった・・・。
「きっと、心がポキッと折れちゃったんですよね。BL本ではそのシーンが何度かあって目にはしてたけど、実際経験すると、本を読む度に思い出されてしんどくて、BL本を読まなくなりました。その反面、少女漫画は、色々アクシデントがあっても好きな人と結ばれ、その後も幸せになれるんです。同性同士だとそうはいきません。たとえ両思いと言う奇跡に辿り着いても、ずっと偏見が付き纏うんです。その壁が乗り越えられなくて奇跡を手放してしまうんです」
コーヒーを一口飲み、薫は呟く。
「堂々と手を繋いだり、抱きしめあったり、奇跡を手放す事なく幸せになれる・・・少女漫画は俺の憧れです」
グラスを握りしめ話す薫の言葉を健悟は黙って聞いていた。そして、その後はあまり言葉を交わす事なく、2人は別れた。
家に帰ってからも薫は今日の出来事に何度もため息をつき、ペンを持つ手も止まっていた。
(健悟君、あんな風に言ってくれたけど、重い話しちゃったかな・・。別れるまであまり話してくれなかったもんな・・)
いつもの定期連絡がない携帯を見つめる。ただただ、深いため息が溢れた。
ピコンッ
不意になった携帯を慌てて見ると健悟からメールが届いていた。鼓動が激しくなり、携帯を持つ手が震える。
メールには「今、会えますか?」の文字。時計を見ると22時を回っていた。
こんな時間に何の用なんだろうか。もう会えないという内容ならメールでもいいのに・・・。でも、きっと健悟の性格だとそんな内容でも会って話すのが、筋なんだと思っているのかも知れない。
返事をどう返そうか悩んでいると、また携帯がなる。
(少しでいいです。この時間帯に薫さんを外に出すのは申し訳ないので、薫さんの家の近くまで俺が行きます)
きっとこの近くまで来ているのかも知れない。このまま返事しないと、その場所で返事が来るまで待つかも知れないな。それくらい健悟は真面目で律儀な性格だった。
覚悟を決めて返事を打つ。
(良かったら、俺の家に来ませんか?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます