第5話 本当の事

夏も中盤に差し掛かり、うだるような暑さが続く。

「はぁ〜生き返る〜」

機械音がなる自動ドアが開くと同時に薫がため息をつく。

「今日は一段と暑いですからね。本屋がクーラー効いてて良かったです」

薫の後ろから健悟が口をつく。今日は新しい漫画を買う為に、駅前の大きい本屋にやってきた。Tシャツをパタパタさせながら2人は奥の漫画コーナーへと向かう。

すると、ある漫画コーナーで健悟が足を止めた。

「薫さん、以前から気になっていたんですが、このコーナーの漫画はどういった漫画ですか?」

健悟に言われ、少女漫画の隣のコーナーを見る。

「あ・・これはですね・・・」

言葉を濁らせていると、後ろから薫を呼ぶ声がして振り返る。

あ、やばい・・。その男の顔を見て、薫は固まる。

「林じゃん。久しぶりだな」

「お、おう」

「なになに?おっ、BL本買いにきたのか?さすが林だな」

棚の本を横目で見てから、薫の顔をニヤニヤと見てくる。その顔に嫌な予感がした薫は健悟の服を引っ張る。

「お、俺達、他の買い物あって急ぐからまたな」

急かす様に健悟を引っ張る。健悟は男にペコリと頭を下げ、薫の後をついて歩きはじめる。

「あ、すまん。デート中だったか?えらいデカくて男前捕まえたな」

相変わらずニヤニヤと薫を見つめる。男の顔に眉をひそめた健悟が立ち止まる。

「デートとはどういう意味ですか?」

「け、健悟君・・」

「あれ?彼氏君じゃないの?林、残念」

「ははっ、なかなか難しいよね。彼は後輩なんだ」

「ふ〜ん」

笑う顔が引き攣る。だめだ・・これ以上いたらダメだ・・頭の中で言葉がグルグル回る。暑さの汗とは違う汗が背中を伝う。

「後輩君、気をつけてね。油断したら狙われちゃうよ。じゃあ、俺、もう行くから」

最後の最後までニヤニヤ笑いながら、片手を上げ男は去っていった。安堵からか足の力が抜ける。

「薫さん、大丈夫ですか?」

倒れかかった薫の腰を支える様に引き上げる。

「ごめんなさい、健悟君。嫌な思いさせましたね。ちょっと・・どこか座れる所に行きたいです・・」

健悟は頷いて、薫を支えながら本屋を後にした。


近くにあったカフェに入り、腰を下ろす。健悟は飲み物を買ってくるとカウンターへ向かい1人になる。

あぁ・・これは・・・話さなきゃいけないかも・・・。

この後、話す内容に薫は気が重くなり、自然と俯く。

しばらくして、アイスコーヒーを乗せたトレーを持った健悟が戻って来る。向かいの席に腰を下ろす健悟の顔を見ながらため息が出る。

もう、会えなくなるのかな・・せっかく仲良くなったのに・・

「薫さん?まだ具合悪いですか?」

心配そうに顔を覗き込む健悟を見ていると、余計に寂しさが込み上げる。でも、話しておくべきだと決意して口を開く。

「健悟君・・さっきは本当にごめんなさい」

頭を下げる薫を不思議そうに見つめる。

「さっきも思ったんですが、薫さんは何に対して謝ってるんですか?どちらかと言うと薫さんより、さっきの方の顔が不愉快でした」

「ふふっ・・そうですね。俺も不愉快でした」

「彼は誰なんですか?それと彼氏とか、BLとか、一番気になるのは薫さんが何に対して謝ってるのか知りたいです」

真っ直ぐに薫を見る健悟の視線が胸を締め付ける。

「健悟君、これからもしかしたら、健悟君にとって不愉快な話をするかも知れないですが、聞いてもらえますか?」

薫は決意したように健悟を見つめ返した。

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